世界の半分は妹で出来ています
スカイレイク
第1話:高校生になりました
朝日が昇ってくる、天気は晴れ、雲一つない晴天だ。
俺がそんな一年に何度もある普通の朝で感慨を受けているのは決して今日、天気がいいからなどではない、今日は記念日なんだ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん! 朝! 朝ですよ! 今日から一緒に登校できますね! ワクワクします!」
そう、俺の妹が無事高校に入学できて初めての登校だ。
「いやー、試験はなかなか面倒でしたね、本命のランクを上げろってみんなうるさいにもほどがありますよ」
我が妹である雲雀は結構な学力がある、そのおかげで実力を出せば一つ二つ上の高校に入ることも出来た。
それを俺がいるからという理由でしがない公立高校に変更したので大もめした、そのせいで両親はがっかりして実家に帰ってしまった。
現在の保護者としての役割は毎月振り込まれる生活費だけだ。
寂しいとは思わないし兄妹二人暮らしというのが面倒に思ったことはない。
「お兄ちゃん! いよいよ、私とお兄ちゃんの輝かしい高校ライフが始まりますね!」
まるで今までがダメな高校生だったとでも言いたげだが、実際あっているといえる。
これといって取り柄もなく、知り合いや友達といえば小学校からの付き合いのある幼なじみの榊(さかき)翡翠(ひすい)くらいしか関係者はいなかった。
そんなぼっちに限りなく近い高校生活に妹が関わることで灰色の世界に色彩が出てくる。
「楽しみだな、おっと、そろそろ朝ご飯にしないと遅刻するぞ」
「そうですね、今日は記念日なのでちょっと豪華な朝ご飯ですよ」
雲雀はしっかりと朝食を作ってくれる、俺にはもったいないことこの上ない妹だ。
キッチンに行くとテーブルの上にオムライスとサラダが置いてあった、朝からオムライス……しかも、ちゃんとケチャップでハートマークが描いてある。
「凄いな、寝起きでよくこれが作れたな?」
雲雀は少し困惑しながら答える。
「いえ……実は……楽しみすぎて寝てないんですよね、だから時間はたっぷりありまして……」
よく見ると雲雀の目の下が少し暗くなっている、どうやら本当に徹夜したらしい。
「ありがとな、でも無理はしないこと、いいな?」
「はい、ごめんなさい。少しはしゃぎすぎました」
素直に謝れるところが雲雀のいいところだ。
ただ、俺の意見に盲従するので俺が正しい人間であらねば雲雀も一緒に歪んでしまう。
だから俺は人として恥ずかしい行為はしないし、出来るだけ立派な人でありたいと思う。
「まあお説教は無しにして食べようか」
「そうですね、と言いたいのですが……」
雲雀は何やらモジモジしながらこちらを見る。
「お兄ちゃん、その、私が食べさせてあげます!」
え? 食べさせる? 何をだ?
そんな考えを巡らせている間に雲雀は自分の皿のオムライスをスプーンでひとすくいし、俺のほうに差し出す。
「ええっと……」
さすがの俺でも少し恥ずかしい、飯くらい一人で食べられる、というか高校ではぼっち飯のほうが多かったので、そんな羞恥プレイをする必要は無いのだが……
「憧れてたんです! こういうの良いなって……一回だけですから! 食べてください!」
俺は誰が見ているというわけでもないと自分に言い訳をしてスプーンを口に含む。
少し酸っぱいケチャップの味がして、卵の柔らかな味が口に広がる。
「はぁはぁ……ありがとうございます!」
なんだか興奮しているような雲雀を前に俺は自分のオムライスを口に運ぶ。
「なあ……早く食べないと遅刻するぞ?」
「はっ! つい意識が飛ぶところでした!」
実際飛んでたんじゃないかと思ったが、俺は人の心を見透かすことなどできないので自己申告を信じる。
カチャ、パク、モゴモゴ
雲雀もオムライスを食べ出したのだが、何故だろう、妙にスプーンを口に含む時間が長い気がする。
あれ? そのスプーンで俺に食べさせたような……
「お兄ちゃん、手が止まってますよ」
雲雀にいわれて俺も食べるのを再開する。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様です」
何度か言い合ったやりとりをした後、パジャマからブレザーに着替える。
制服を否定する人が居るのも事実だが、服装に標準規格が決まっているのはセンスのない俺からすればありがたいことだ。
「なあ……今日の登校だけどさ……?」
「なんでしょう? あっ! あんまり大胆なことは風紀委員に見つかっちゃいますよ?」
コイツは言った何をする気なのかはさておいて。
「校舎の案内するぞ、一応俺のほうが一年先輩だからな」
雲雀は食い気味に話しかけてくる。
「お兄ちゃんが先輩! いいですね! グッドです!」
「ああ、一年でも先輩には変わりないだろ?」
「ああ……そしてお兄ちゃんは人気のないところを案内して放課後に……」
雲雀の顔が真っ赤になる、はて? 俺は何か不味いことをいっただろうか?
「ええと……嫌ならいいけど?」
「嫌なわけないじゃないですか! ウェルカムですよ!」
「そ、そうか。じゃあ食器を片付けるか」
「いえ! 私が全部やりますのでお兄ちゃんは私に案内する内容を熟考しておいてください! 私をちゃんと満足させてくださいね?」
なんだかとてもハードルが上がってしまった、ただの案内なのに……
とりあえず図書室でいいかな……いや、保健室もいざというときのために……
「そうそう、出来れば人気がなくて二人きりになれるところをお願いしますね?」
無茶ぶりが飛んできた、人気がなくて二人きり……というかそんな場所に何の用が……?
じゃあ半地下の謎スペースでも案内するか……誰が喜ぶんだ?
雲雀も片付けが終わったのかエプロンを取って制服姿になる、妹の制服姿というのも新鮮だな。
「どうしました? ポカンとして」
「いや、同じ学校に通うのっていいなって思ってな……なんだかんだ一年離れてたわけだしさ」
雲雀は俺が言い終わらないうちに抱きついてきた。
俺は少しバランスを崩すが倒れないよう踏ん張る。
「そうです! お兄ちゃんと同じ学校です! これからよろしくお願いしますね! どこにも行かないでくださいよ?」
「俺はどこにも行かないし、お前が望むなら側に居るよ、まあお前が俺を嫌うというならしょうがないけど……」
「お兄ちゃんを嫌いになんてなるわけないじゃないですか! 大好きです!」
そんなやりとりをしていると時計が目に入った。
「やばい、遅刻するぞ! 急げ」
雲雀も不味いと思ったのか鞄を取って小走りで玄関に向かう。
「お兄ちゃん! 手を繋ぎますよ!」
遅刻しそうだというのに雲雀は余裕のある提案をしてくる。
俺は考えていると間に合いそうにないので、差し出された手を掴んで走り出す。
ぐんぐんと引っ張られていき、学校近くになってまだ予鈴まで時間がある事に気付いた。
「ありがと、もう大丈夫。ここからなら歩いても間に合うぞ」
「そうですか……」
俺を引っ張った手を離すのかと思ったら握り方を変えてきた、所謂恋人つなぎというやつだ。
さっきまで気にならなかった手のひらから伝う体温が少しだけ恥ずかしい。
「じゃ、お兄ちゃん、いきましょうか?」
「あ、ああ……」
手を強く握られているので離せない、力を緩めると手のひらが痛いくらいしっかり握ってくるので校舎までこの格好で行くしかないようだ。
「あ! あなたが雲雀ちゃん?」
声の主は幼なじみの榊(さかき)翡翠(ひすい)だ。
なんだか舐めるように俺たちを見ている。
「ちゃんと美少女ね……」
「あなたはお兄ちゃんとどういう関係なんですか?」
雲雀の声にトゲが混じる。
「ただの幼なじみよ、同じクラスになることが多かっただけ」
「それにしてはお兄ちゃんと一緒に居るところを見ませんでしたが……」
雲雀は不服そうだ。
「コイツガ『妹がー』『妹はー』ってうっさいから関わらなかったのよ、どうやら正解だったみたいね」
俺たちの繋いだ手を見てそんなことを言う。
「入学式の朝っぱらから兄妹で手を繋いでるのはどうかと思うわよ?」
雲雀はムッとしたように反論する。
「仲が良ければ手くらい繋ぐでしょう? あ、誰とも手を繋いだことのない人には分かりませんでしたねごめんなさい」
「アンタ喧嘩売ってんの!?」
雲雀は俺以外の友達を作ろうとしなかったので高校くらいでまともな友達の一人くらいは……と思っただけれど甘かったようだ。
俺の手を握る力が強くなりちょっと痛い。
「私はちゃんとお兄ちゃんというパートナーが居ますから、一片たりとも恥ずべきところはありません!」
堂々とした宣言だった。
「はぁ……もういいわ、でも一つだけ言っておくわ」
翡翠は一言雲雀に宣戦布告をした。
「兄妹で結婚は出来ないのよ?」
それは争いの始まりで火種どころかキャンプファイヤーレベルの闘志が雲雀の胸には宿ったのだった。
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