第三章 真実

第18話 守るべきもの

 私は先輩の最期を看取った後に、先輩のもとを離れて大学のすぐ近くにある橋の下に向かった。幸か不幸か誰ともすれ違うことなく移動することができた私は、川の水で血を流ししばらくの間放心状態になっていた。このまま死んでも良いとすら思っていた。しかし、私には彼女との約束がある。それを完遂するまで死ぬことは許されない。私は先輩から託された携帯電話を手に取り、決意した。


「この中に先輩の大切なものがある。私はそれを守るんだ」


先輩は何者かに腹部を刺されたのだ。そして私はその犯人に心当たりがあった。

あの時、教員室に向かう時にすれ違った人物。ほとんど人気ひとけの無かった大学であの時あの場所に偶然居合わせただけとは考えられない。先輩を刺したその憎い犯人を、必ずこの手で捕まえなければならない。必ず。


 自宅に戻った私はすぐに先輩の携帯電話を充電した。携帯電話には無用心なことにパスコードが設定されておらず、簡単に中身を見ることができた。そしてすぐに目に入ったのが、その待ち受け画面であった。そこにはコーヒーをすする男性が写っており、先輩が言っていた『大切なもの』がであることにはすぐに気付いた。私はこの彼を、守り抜かなければならない。アオイ先輩を刺した何者かがこの後彼を狙う可能性も否定できないためだ。


 私はについての情報収集を始めた。アオイ先輩とのメールのやりとりや、彼のSNS等この携帯からたどり着くことができる全ての情報をかき集めた。


「蒼井ハルト。先輩と同じ大学の同じ研究室で、歳は先輩の一歳下か・・・」


白河アオイ先輩と、蒼井ハルト。どちらも同じであることが、二人の関係構築のきっかけになったようであった。

 

 先輩の携帯から、彼の大体の情報は入手することができた。私は犯人を探しながらも、彼の様子も伺う必要があると考えた。そのためにもまずは、先輩と同じ大学に確実に受からなければならない。



 それから数ヶ月が経過し、私は無事に大学に合格することができた。あの後すぐにアオイ先輩の遺体は発見され、さすがに私にも疑いが掛かると覚悟をしていたものの、何故か特に何の捜査も及ばなかった。あの日は人が少なかったとは言え、本当に誰にも目撃されなかったのであろうか?そんな疑問を抱えながらも、私は大学に入学した。


そしてある日の午後。

私は行動に出た。


「アオイ先輩、みーつけた」

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