第2話 赤木リン
麦わら帽子の彼女は、俺のことを見つめている。
「えっと、あれ、どこかで会ったかな?」
「覚えてないですか?」
「あの、その…ごめん」
「あは。じゃあ、初対面かもしれないですね」
彼女はそう言ってまた笑った。この不思議な雰囲気の彼女には「美少女」という言葉がよく似合った。黒髪のロングに細い手足、身長は155cmほどで年齢は...
「そんなにジロジロ見られると、恥ずかしいですよ」
「あ、ごめん」
突然の出来事に頭の整理が追いついていなかった。一体彼女は何者なのか。なぜ俺の名前を知っているのか。ただ一つはっきりとしていることは、彼女からは何となく懐かしい匂いがした。
「また同じ質問だけど、俺たち、どこかで会ったことあったっけ?
「見覚えがなければ、初対面ということになります」
「見覚えはないけど…」
「けど?」
「…けど、なんか懐かしい匂いがする」
俺が、彼女から目をそらしてそう言うと彼女は吹き出した。
「…ぷっ、あははは。女の子に向かって『匂い』だなんて言葉を使うんですね。先輩モテなさそう」
「余計なお世話だよ。たしかにモテはしないけどさ」
「もっと女心を勉強した方がいいですよ。石川先生のところで研究ばかりしてないで」
彼女は一体どこまで俺のことを知っているのだろうか。俺は彼女のことを全くと言っていいほど知らないというのに。
「もう十分からかっただろ。そろそろ君が何者なのか教えてくれよ」
「えぇー。からかってるつもりなんて無いですよ」
「石川先生のことを知っているということからも、君は俺と同じ花坂大学の学生であることが推測できる。俺を先輩と呼んでいるってことは学年は一年か。さすがに学部学科までは断定できないな。今の俺にわかるのはここまでだ」
「あはは。正解です。でも推理っぽく話すあたり、オタク感が出てて気持ち悪いですね〜」
容赦のない的確な指摘に言葉を返せなかった。毒舌というかなんというか...。
「あれ、もしかしてショック受けてます?」
「放っておいてくれよ」
「図星じゃないですか。けっこう可愛いところもありますね」
「一体何なんだよ君は…」
俺がため息混じりそう返すと、彼女は笑いながらさらに距離を詰めてきた。
「私は、
「赤木リン…」
「リンちゃんって呼んでくださいね?」
どこかで聞いたことがあるような…。いや、やっぱり気のせいかもしれない。ここまでの容姿の女の子であれば、忘れるはずがない。
「さて、私はそろそろ帰りますね。私の家はあっちですので、ここでお別れです」
「あ、あぁ。じゃあ、また」
嵐のような彼女に終始振り回され、ひどく疲れてしまった。俺は適当に手を振り、再び帰路に就こうとした。するとその時、俺はまた彼女に呼び止められた。
「アオイ先輩、はいこれ。危うく忘れるところでした」
「これは?」
彼女は二つ折りにされた小さな紙切れを俺に渡してきた。ゆっくりとその紙を開くと、そこにはいくつかのアルファベットが羅列されていた。
「それ、私のLineのIDです」
「え?」
「連絡待ってますね」
そう言うと、彼女は振り返り俺の家とは逆方向へ歩き出した。さらに謎の展開になってしまった。初対面の女の子から急に声をかけられれ、LineのIDまで渡されて…。しばらく硬直していると、最初に彼女を発見した時と同じくらいの距離まで歩いて行った彼女が足をピタリと止めた。そしてこちらに振り返り、優しく笑う。
「私、アオイ先輩が好きです!」
彼女はそう言うと、今度はすぐに走り去って行った。
俺、蒼井ハルトは人生で二度目の告白をされた。 相手は一つ下の後輩、赤木リン。これから、俺の人生は一体どうなっていくのか。この時の俺には想像もつかなかった。
いや、この時の俺は、あまりにも知らなさすぎだったのだ。
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