抗体検査で分母を推定

 分母である感染者の合計を正しく把握する手段の一つとして、抗体検査を用いることができます。


 抗体検査とは血液を採取し、特定のウィルスに対抗する物質を人体が作り出しているかを調べる手法です。前回のお題「一度感染すれば、もう大丈夫?」の「獲得免疫とは人相書き」での比喩を引き継ぐとすれば、一度ストーカー感染被害に遭った方が持ち歩く、防犯ブザーのような役割を担っています。


 基本的には抗体を持っている人は、その特定のウィルスにかかったことがあり、持っていない人は感染したことない人とされます。

 勿論例外は存在しますし、抗体検査も完璧な精度を誇っているわけではないので「基本的には」ですが。


 ともあれ新型コロナウィルスの抗体検査を、人口全体を代表し得る人たちを対象に行えば、理論的には新型コロナウィルスに実際感染した人口の割合を割り出せるということです。


 無症状や軽症な感染者がいたとしても、理論上は抗体検査に引っ掛かる筈です。


 なので感染者の総数の調査のため、世界各地では抗体検査が行われてきました。


 例えば韓国南部の大邱テグという地域では二〇二〇年五月二十五日から六月五日の間に約200人を対象に抗体検査を行い、全体の7.6%、つまり15名の方から新型コロナウィルスに対する抗体が検出され、うち13名は無症状という結果を報告しています[11]。

 この感染している人の割合を、大邱テグ全体の人口に当てはめると、推定で約185,290人が感染していることになります[11]。


 当時の大邱テグで報告されていた感染者数は6,886人なので、その27倍という規模になります[11]。

 ほっほぉ。27倍ですか。


 私は新型コロナウィルスに対しての韓国の対策を良くは知らないのですが、こちらの論文の内容を信用するのであれば、大規模な検査体制、感染者と接触した人たちを率先して探し出すためのシステム、隔離の処置などは世界的にも注目される水準だとしています[11]。

 にも関わらず結構な感染者が把握されずにいる可能性が指摘されているわけです。


 それはまるで氷河の一角のよう。

 一人の感染者が確認されれば、26人が検知されずにいる。


 勿論検査精度が低く、多く見積もられたという可能性はあります。

 別の似たような抗体に反応することもあるらしいので、その場合は確かに偽の陽性反応が出ます。


 ですが仮に検査の精度に問題があったとして、これらの数字が劇的に下がるとも限りません。

 なので見逃されている感染者というのは、確かに存在するのではないでしょうか。

 その数は未だ分かりませんが、思った以上に感染の規模が大きいという可能性も、充分あるのではないでしょうか。


 そうなると気になるのは、一体把握できていない感染者がどれくらいいるのか、ということです。

 その地域の検査体制にもよるでしょうが、特に多いところではどれくらいの感染者が見逃されているのでしょうか。


 ということで抗体検査を使って感染者の総数を調査した論文やプリプリントを何個か紹介していきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る