新型コロナウィルスが持っている「合鍵」

 話は横道にそれますが、このコロナという単語を以前から聞き知っている方もいるのではないでしょうか? 皆既日食の際に太陽の周りに見れる幻想的な輪っかもコロナと呼ばれています。実はコロナというのはラテン語で「冠」を意味しており、科学の中では度々見かけます。顕微鏡で見た時の卵子の周りに放射状に伸びている細胞の層もCorona radiataコロナレィディアタと呼ばれています[7]。


 勿論新型コロナウィルスにもこのコロナは存在します。電子顕微鏡で撮った白黒写真が良くニュースなどで使われているかと思いますが、ややくっきり見える輪郭の外に、もやもやっとした白いものが見えないでしょうか。これらは糖タンパク質(言葉の通り、糖とタンパク質、厳密にいうとそれらの更に細かくしたアミノ酸とがくっついてできたものです)で構成されている突起物であり、新型コロナウィルスのコロナであります。


 この突起状の糖タンパク質というのが新型コロナウィルスが細胞内に侵入する「鍵」だと言われています[8]。例えを使って説明したいと思います。


 仮定として、あなたの住んでいるマンションの一階の部屋が肺にある一つの細胞としましょう。壁や天井や扉は細胞膜であり、部屋の中の家具や日用品は細胞の中の組織といったところです。マンションの一室一室はそれぞれ様々な細胞であり、マンション全体が人体です。あなたは隣人他の細胞とも仲良く暮らしており、マンションは大変平和です。

 更に仮定として、あなたの元恋人、現ストーカーを、新型コロナウィルスとしましょう。宅配便を装いマンションの玄関口や鼻から侵入し、一階のあなたの部屋の前まですんなりと進みます。

 平日のお昼時。テレワークが推奨されているにも関わらず、あなたの会社ではあまり普及していません。つまりあなたの部屋肺の細胞は現在無人状態。

 でも大丈夫。なんせマンションの玄関口や鼻を突破したとしても、あなたの部屋肺の細胞にはかぎが掛かって細胞膜で守られています。そう簡単には入れ感染できません。

 しかしストーカー新型コロナウィルスは用意周到でした。なんと、合鍵突起状の糖タンパク質を持っていたのです! それを使い、ストーカー新型コロナウィルスは難なくあなたの部屋肺の細胞入り感染します。


 という具合に、新型コロナウィルスストーカー肺の細胞あなたの部屋に侵入するのに適している突起状の糖タンパク質を持っています。これらが肺の細胞膜あなたの部屋の扉にある別のタンパク質と合わさることで、肺の細胞あなたの部屋ウィルスストーカー必要な物質鍵を持つ正当な客人と勘違いし、ウィルスストーカーを中に入れてしまうのです[8]。


 この後としましては、あなたの部屋に侵入したストーカー新型コロナウィルスは部屋の中にあるものを私物化し、自分のコピーを作っていきます。

 ストーリーとしては一気にSF感が出てきましたね。

 そしてあなたの部屋に火をつけ、細胞膜をぶち壊し、エレベーター血流に乗って隣人の部屋他の細胞を占拠してゆき、マンション人体の乗っ取りを目論見ます。この際、ストーカー新型コロナウィルスの数人は外界へと出てゆき、次なるマンション人体侵入感染を試みます。最終的には増えてしまったストーカー新型コロナウィルスマンション人体から追い出すか、或いは燃え盛るマンション人体もろとも大半のストーカーたち新型コロナウィルスも永眠となります。

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