絶対に笑ってはいけない異世界転生24時

ちびまるフォイ

見ているとどうしても笑っちゃう

3人は指定された場所へ向かうと看板がひとつ立ててあった。


「"ここで待て"だってよ」

「なんの用件かくらい言ってくれればいいのに」

「わたしは勇者についていくだけ」


すると、遠くから三輪車を必死にこぎながら勇者の元マネージャーがやってきた。

最初はいろいろ勇者としてクエスト依頼の管理などでマネジメントが必要だと雇ったものの、そもそもそこまで依頼がなかったのと手際の悪さでやんわりクビにしたそのひとだった。


「最近のおまえらはたるんどるっ。

 冒険の最初こそ魔王を倒すと息巻いていたのに。

 今は、今は……あーー」


「え? 忘れた? というかなにか台本ありきなの?」


「とにかく、お前たちにはゲームをしてもらう。

 これから魔王を倒すまで、笑った人間からお尻をシバかれるから覚悟しいや」


「人間サイドから援護ならまだしもなんで妨害されるんだよ」


「とくに勇者、お前は許さんからな」

「もう会話が一方通行じゃん」


「お前に捨てられてから私は魔王に魂を売った。

 これも魔王様の意向であり余興。魔王様にたどり着いたとき

 もっとも笑ったものが死ぬという呪いをかけているんや」


「それじゃ私達は魔王に監視されてるってこと!?」


「さあ、バスが来たで」


「こっちの質問を聞く気ないならせめて台本くらい覚えてこいや」


「ふへへ……」


元マネージャーはニヤニヤしながら3人をバスに案内した。


「ええか。バスに乗ったらゲーム開始や。

 一度乗ったら魔王のもとへいくまで終わらんからな」


「よ、よし、行くぞ……!」


勇者は段差を越えてバスに乗り込んだ。

そして、バス停から勇者を眺めるばかりで一向に乗り込まない二人に思わず息が漏れた。


「ンッフフフwwww ちょwwwwwなんで乗らないんだよぉwwwww」


デデーン。勇者、アウトーー


どこからか現れた黒ずくめの男に勇者のお尻がぶっ叩かれた。


「いたぁいっ!!!」


その様子を見ていた仲間の二人は顔をそむけて笑っている。

顔を見せまいとしても完全に肩が笑っているときの動きをしている。


「おまっ……お前らも乗れよぉ! なんで乗らないんだよ!」


「別にバスじゃなくてもいけるし」

「そう。むしろ非効率」


「さっき"勇者についていく"って言ってたじゃん!」


「それは結果的にそうなればいいのであって、

 その道中もストーカーのようについていくわけじゃない」


「フフフ笑 いや、そんな仲間ってある?」



デデーン。勇者、アウトーー



「ちょっとじゃん! ちょっとニコってしただけじゃん! あ゛ぅ゛ん゛!!!」


仲間のふたりはまた顔をそむけて笑っていた。


「声殺しても笑ってるのわかるからな!!

 いいから乗れよ!! ずるいぞ!!」


強引にふたりを引っ張ってバスの乗せるとやっとバスは動き出した。


「勇者、あんたそんなに笑いやすかったっけ」


「笑っちゃいけないって思うと逆に意識しちゃって

 小さなことでもすぐに笑っちゃうんだよ」


「このぶんじゃ一番笑って死ぬのは勇者みたいね」


「そうとは限らないだろ。最初こそちょっと笑っちゃったけど……。

 あ! 今こいつ笑ってましたよ! 今! 思い出し笑いしてましたって!!」


勇者は外に向かって必死に訴える。

けれどお尻を叩かれる前のアナウンスは聞こえない。


「ええ……今のノーカウント? ひいきじゃない?」


「あんたと日頃の行いが違うのよ」


「フフw それだと認めてるじゃんww」



デデーン。勇者、アウトーー



「なんで俺だけなんだよ!! あ痛ぁい!!」


思いきり叩かれた勇者を見て、魔法使いは三角帽子を引っ張って顔を隠した。



デデーン。魔法使い、アウトーー



「ちょっとじゃない! これもカウントされる……痛いっ!!」


仲良く3人の仲間のうち2人がぶっ叩かれた。


「これ危ないわね。なにが危ないって、叩かれたところ見て笑っちゃうもん」


「そりゃお前だけだろ。人が痛がるさまを見てキャッキャ笑ってたじゃん。

 さっきのもバス乗る前の感じで笑っちゃってただろ」


「……」


「あ、こいつそもそも笑う流れにならないようにだまりやがった」


魔法使いはツンと黙ってひたすら会話をシャットアウト。

もうひとりの仲間は「氷の女王」と呼ばれるほど表情が少ない。


(まずいな……このままじゃ確実に俺が処刑されてしまう……)


すでに数回リードしてしまっている勇者。

道中で抜き去ってもらわないといけない。


勇者は意を決してしゃべりはじめた。

大爆笑間違いなしの自慢のエピソードトークだ。


「こないだ、武器屋さんへ行ったんだよ。武器買いに。

 そのときに"けんありますか"って聞いたんだよ。

 そしたら店員のおっちゃんが……フッフフフwwwwそのwww持ってきたのがwwwwww」




デデーン。勇者、アウトーー



「全部しゃべらせてくれ……よ゛ぉ゛っ!?」


勇者は叩かれたあともややオーバーかつコメディっぽくぴょんぴょんその場を跳ねる。


「あーー……痛かった。なんかね、お尻に当たらなかったの。

 お尻よりやや下の太ももに命中しちゃって、もうめっちゃ痛い。

 火がついたと思ったもん。お尻に」


この痛みすらも笑いの誘い水に使おうとした勇者だったが、

仲間の二人はツンとしてまるで笑っていなかった。


太ももが痛いと言っていたのに、お尻に火がついたというズレた報告が爆笑のもとなのに。


「ンフッwwww」



デデーン。勇者、アウトーー


そんな空回りする自分の状況を意識してしまいまた勇者は笑ってしまった。

勇者のひとり相撲は続いた。




デデーン。勇者、アウトーー


デデーン。勇者、アウトーー


デデーン。勇者、アウトーー



魔王の城にたどり着いたころにはもはや逆転不可能なほどの差がついていた。

勇者はもうこの呪いの元凶をさっさと倒してしまうという方向に考えが変わっていた。


「いくぞみんな!! 魔王はこの先にいる!!」


すると、待ちかねていたように薄暗い奥の部屋から重い足音が近づいてくる。

迫りくる大きな存在にとても笑えるような精神状態になれない。


ついに魔王が姿を現した。


大きな背丈にやたら刺々しい服が威圧感を与えている。

体全体からあふれる魔力は3人が力を合わせたところで勝てそうもない。

魔王はゆっくりと口を開いた。


「フハハハ。よく来たな勇者よ。だがここがお前の墓場ーー」



デデーン。魔王、アウトーー




<お尻をシバかれた回数>


魔王使い 21回

氷の女王 2回

勇者  322回


3人を監視していた魔王 452回




そして、もっとも笑ったものに死の呪いがふりかかった。

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