第四話 裏ワザ発見
ストフさんはすぐに私の送ったメモに気付いてくれたようで、それから五分ほどで東門から街に入り、西門へと駆けて行く複数の馬の蹄の音が聞こえた。
とにかくスピード重視で第一部隊を送り出してくれたのだと思う。
でも、西門の箱から聞こえてくる音は明らかに緊急事態を告げていた。魔物の群れを発見した門番兵たちはすぐに門を厳重に閉じてバリケードを張ったけれど、重い木製の門を破ろうと、ガリガリと爪を立てる音や、魔物たちが体当たりをする音が聞こえてくる。
東側の魔物の襲撃に人員を割いてしまったので、今この門の前にはたったひとりの兵しかいない。もうひとりは救援を求めるために東側へと伝令に出てしまったからだ。
こうなってしまうことは想定してはいたけれど、私が伝令役ができることを兵士さんたちに事前に伝えることができなかったので、仕方ない。…仕方ないけど、やはり悔やまれる。
実験はしていたけれど音がどれくらい正確に拾えるかは明言できなかったし、それをストフさんに伝えることも確実とは言えなかった。何より、私の力を説明して信じてもらうためには、私の力を相当な人数に明かさなくてはならなかった。
ストフさんにも相談したけれど、そこまでする必要はないと強く言われた。
あくまで補助的な役目として、可能であれば伝令をしてもらえたら助かるけれど、それができなかったとしても、それはゼロなだけでマイナスではないのだからと。
でも、実際にひとりで門の前に残った兵士さんと、この危機を伝えるために仲間を残して伝令に走ったもうひとりの兵士さんのことを思うと、胸が痛んで仕方なかった。
じっとしていられず、庭に出て西の空を見上げると、赤の
夜でも見えるように研究された色だけあって、ここからはだいぶ距離があるのに、はっきりと見えた。間もなく西側から街への魔物の侵入があることは間違いない状態だと、門の前に残った兵士さんが判断したのだ。
西門付近には住宅街があり、住民の避難も開始しなければならないけれど、たったひとり残った門番兵は魔物を迎え撃つ覚悟で、おそらくその場所から動けない。非常事態なので眠っていない大人も多いはずだから、すぐに狼煙に気付く住民もいるだろうけれど、果たして間に合うだろうか…
東門の外での戦闘はだいぶ落ち着いてきたようなので、すぐに別の部隊も西側へと救援に向かうだろう。その前に西側の住民が街の東側に避難すれば、かなり守りやすい状態になるはずだ。
私はもう一度音を拾って必死で状況を確認する。
ストフさんが送ってくれた東側からの第一部隊はようやく街の中心の橋を渡って西門へ向かっている途中。赤い狼煙が見えたので、大声を上げて住民に東側のエリアへ避難するよう指示を出しながら馬を走らせているため、進みが遅くなっているようだ。
西側の住民たちが狼煙を見て動き出した声がするけれど、時刻は深夜。子どもたちやお年寄りを起こして全員が逃げるにはまだ時間がかかる。人によっては家を厳重に閉めて逃げないという判断もするだろうし、なおさら住民たちの状況把握が難しくなってしまう。
たったひとりの門番兵が守る西門近くの箱からは、今にも破られそうな音が響いている。
東門から第二部隊が入って来た音がする。第一部隊もあと少しで西門へ着くはず。数分の時間さえ稼げれば勝機はある。でも、時間が足りない。
私がここから走ったところで、歌が届く範囲に入るまでには時間がかかりすぎる。一体どうすれば……
自分の歌の力で出来ることを必死に考える。
何かないの!?こんなチートがあるんだから、少し時間を稼ぐくらいできるはず…せめて避難誘導だけでも手伝いたいけど、大きな橋を架けるとか、今にも破られそうな音を立てる門を強化するとか…いや、ダメだ遠すぎて力の範囲外だし…
焦る私の耳に、恐れていた音が聞こえた。
西門の重い木の扉を魔物が一点集中で突破したようだ。穴が開いたせいか、聞こえる魔物の鳴き声が鮮明になった。十や二十どころの数ではない。門番兵ひとりで迎え撃てば確実にその兵士さんの命はない。
「ダメ!逃げてーーーーー!!!!!」
思わず叫ぶと、凍えた唇と喉が驚いたのか、チューニングのずれた楽器のような情けない声が出た。
が、そのとき。
<なんだ今の叫びは?魔物がひるんでいるぞ…?>
<ウォオオウウ…??(おい、なんだ今の音は)>
<ガルルルル…?(知らん、人間のメスのような声だったぞ)>
<グルル…ルル…(このあたりにメスの気配はないぞ、それにうるさ過ぎる…耳が痛い…)>
私の耳に複数の声が飛び込んで来た。同じ西門付近の箱から聞こえたものだ。
ひとりはおそらく門の前に残っていた兵士さんの声。そしてその他は、いよいよ街の中に入って来た数体の魔物の声のようだった。…まさか私、動物に引き続き魔物の言葉まで理解できるの…?
異世界自動翻訳機能にびっくりしたけど、問題はそこではないので一旦置いておく。
今、もしかして私の声が箱を通じて西門まで届いた?必死で叫んだら変な抑揚のついた声になっちゃったから、それが歌だと判断された?
ということは、今まで集音装置のイメージだったから考えたこともなかったけれど、もしかして音を拾うだけじゃなくて、箱を通じて私の声を送ることもできるの…?
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