翌朝

 翌朝、3人は大学を訪れた。森の中にある格納庫前は大騒ぎだった。


「危ないから下がって!」

 制服を着た警察官が、黄色い立ち入り禁止テープ前の野次馬に声を張り上げる。普段は人けもまばらな大学のはずれに、この日は大勢の人がつめかけていた。見物に来た野次馬に加えて、大きなビデオカメラを肩に構えたカメラマンや片手に資料を握ったテレビクルー、マイクを持ったリポーターなど報道陣も集まっている。あちこちに三脚や脚立が置かれ、取材場所の陣取り合戦が行われているようだった。


 目立たないよう人混みに紛れながら、3人は格納庫を遠目に眺めた。何台もの警察車両と消防車が建物の前を囲むように停車していて、警察と消防による現場検証が行われている。格納庫は爆発によって入口のシャッターが吹き飛び、前方右側の屋根と壁面が大きく崩落していた。トタンのあちこちに大穴が空き、骨組みが露わになっている。建物の後ろ半分は運よく原型をとどめていて、内部に建てられていたプレハブ小屋は、耐火・耐圧仕様だったため難を逃れていた。黄色いヘルメットを被った何人もの刑事がひっきりなしに出入りしている。現場の隅には、昨日乗り捨てたトラックがブルーシートを被せられて保存されていた。


 隣にいる野次馬のスマホからニュースが聞こえてくる。

『本日未明、筑波大学で爆発がありました。爆発があったのは、大学構内にある宇宙ロケット研究サークルの工場です。警察と消防によると、爆発したのは工場内に保管されていたロケットとのことですが、詳しい原因は分かっていません。サークルの部員3名とは未だに連絡がついておらず、行方不明になっています』


 コースケは携帯端末を取り出し、番組を見た。洗いざらい確認するように、次々とチャンネルを切り替える。


『大学生が、ここまで威力の強い爆薬を使用して実験を行なっていたとすれば、これは大問題ですよ』


『行方不明になっている3人の学生ですが、えー、ミサイルを製造していたことが取材によって明らかになりました』


『爆発した建物内のPCから設計図のようなものが複数発見されたとのことです。改良を重ねていたことがうかがえます』


『もう凄い音と衝撃で、夜中に飛び起きちゃったんですよ。隕石か地震か何かじゃないかって』


『サークルを隠れ蓑にしたテロ組織の可能性が高いのではないかと』


『独自取材の結果、現場近くの防犯カメラには、慌てて立ち去る3人の学生が記録されていたことが判明しました』


『大学生グループが誘導ミサイルを製造というニュースが入ってきました』


『僕ら学生の間では、AIを搭載した新型を作ってるって噂になってます。一体何のために使うんですかね』


『ミサイルを製造していたテロリストが未だに行方不明。これは安全保障上、重大な問題だと言えるんじゃないでしょうか』


『だいたいこの爆発の規模だと、飛翔体の飛距離は100km以上になると思います。筑波から東京都心を狙うことも可能でしょう』


「おとなしく出頭するか?」


 レンの問いかけに対し、コースケは首を横に振った。身を隠し続けるか、それとも警察に出頭するか。選択を迫られていたが、そのどちらを選んでも状況が改善するとは思えなかった。


 コースケは携帯端末をもう一度見た。ニュース番組では、3人が格納庫を立ち去る瞬間の映像が何度も繰り返されている。その映像にエクストラクター達の姿は無く、加工された偽の映像がメディアに提供されたことは間違いなかった。


「こんな形で終わりたくない」

 コースケは俯きながら呟く。


「俺だって」


「何もしないことが最善だなんて思いたくない」

 エリは唇を噛んだ。


「もし、方法があるなら……」

 コースケの声は尻すぼみになって途切れた。できるなら行動を起こしたかった。けれども、進む方向が分からなかった。


 次の一手を決めかねるコースケに対して、レンが言った。格言を言うような口調だった。

「困った時は人を頼るべし」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る