警告音
突然、けたたましい警告音が鳴りはじめた。
コースケは慌てて視線を空から戻し、音の出所を探った。テーブルの上に置かれた携帯端末が警告音を鳴らしている。
「何が起こってるんだ……」
コースケは焦りながらも端末を手に取る。端末の画面には、ロケットから受信したエラーメッセージがいくつも映し出されていた。毎秒ごとにエラーが更新され、その通知の数は増え続ける一方だ。ロケットに何かの異常があることは明白だったが、コースケにはエラーの意味やその原因が検討もつかなかった。直前のシミュレーションで異常は無かったのに、と唇を噛む。
コースケは、端末の画面を2人に見せた。
「これ!」
エリは言った。
「詳しく見せて!」
すぐさまコースケの隣に来たエリは、テーブルの上の料理を腕で払いのけた。空いたスペースに自分のラップトップを置き、コースケの端末を接続する。
「俺にもわかるように説明してくれよ!」
レンの声に不安の色が滲む。
「かなりまずい状況。HALがロケットの異常を検知してる。HALそのものの生命維持も難しくなってる」
エリは表情を曇らせた。
「生命維持って、あいつはただのプログラムだろ?」
レンの問いかけに対して、エリは早口で説明した。
「そりゃそうだけど、HALには生身の宇宙飛行士みたいに命の概念がついてる。そのHAL自身がSOSを送ってきてる」
「緊急停止コマンドは?」
コースケは提案した。
エリは素早くキーボードを叩く。
「ダメ。全く反応がない」
「格納庫に、早く!」
コースケは消火用のバケツを乱暴にひっくり返し、肉の上からグリルに水を被せた。3人は急いで駐車場へと戻り、トラックに飛び乗った。
「ベルト締めろ!」
運転席のレンが声を荒げる。助手席にコースケが、中央の座席にはエリが座った。
「捕まれ!」
レンはアクセルを踏み込んだ。エンジンが唸りを上げ、車は勢いよく発進した。
トラックは筑波山を下る山道を猛スピードで進む。継ぎ接ぎだらけのアスファルトの路面が、トラックの車体をガタゴトと揺らした。道路脇に電灯はほとんどなく、トラックのヘッドライトは、反射材が取り付けられたガードレールと道路脇に生い茂る木々を真っ暗闇の中から浮かび上がらせた。道路脇のあちこちには、念には念を入れるかのように、急カーブやスリップ注意を知らせる標識が建てられている。道路のすぐ左側は所々景色が開けていて、切り立った崖になっていた。
カーブに差し掛かると、3人の体は遠心力で大きく外側に揺さぶられた。レンは少々乱暴にハンドルを切って、車の向きをコントロールする。タイヤを滑らせたトラックは、時々ドリフト走行になった。補修されていないアスファルトは路面に段差を作り、トラックがそこを飛び越える度に体がふわりと浮いた。不安になったコースケは、アシストグリップを強く握りしめて体を支えた。
大きく上下左右に揺れる車内で、エリは膝上のラップトップを冷静に睨んでいた。HALからのエラーメッセージは、相変わらず更新され続けている。状況は全く好転していなかった。
「ロケットは?」
コースケが訊いた。
「全然ダメ」
次の瞬間、エリの顔色が変わった。ディスプレイを見つめる顔は青ざめている。
「テレメトリロスト……」
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