雨リリス

みな瀬

男子校にはゲイが多い


 ボクは、川合夏糸かわい かいと。一七歳。男子校のせいにはしないけど、恋人なし。ごくごく普通な高校生です。

 ただ今、午後の授業中。窓側の席であることを特権に、外の景色を眺めながら、そんなことを考えている。

 なんて平和な日々を送れているのだろう。最近まで、満開でキレイだった桜が、今じゃもう葉桜になったかあ。

 そんなことさえ、考えながら。

「川合」

 おっと。どうやら数学の先生に指名されたようだ。

「川合、この問題の解を黒板に書いてくれないか」

 数学が苦手なことを忘れて外の景色なんか眺めてた30秒前のボクを殴りたい。解き方が全然分からない。

「えっと·········すみません、解き方が分からな·····」

 突然、後ろからツンツンとつつかれる。後ろを振り返ると、幼馴染の梨都揮りつきがノートを見せてくれた。

 梨都揮のおかげで、なんとか問題が解けて再び席に着く時、

「助けてやったんだから、後で飲みもん奢ってくれよ」

 そんなニカッとした笑顔で言われたら、うんと答えるしかない。第一、助けてくれたんだし。


 放課後になり、行きつけのカフェテリアへ梨都揮と向かう。

 梨都揮は、アイスコーヒーを、ボクは、アイスカフェラテを店員さんに頼んだ。

「で?数学の授業んとき何を考えてたのさ。なにか悩みでもあんのか?」

 と、頬杖をつき、ボクを見つめ言ってくる。

「別に大したことじゃないよ。葉桜キレイだなあとか、考えてた。」

 ボクは、俯きがちにストローでズズっと啜りながら、そう答える。

「ふーん。まあ、まだ言えないなら言ってくれるまでいくらでも待つけどさ。溜め込む前にオレに話してくれると嬉しい、かな」

 ボクの性格上、あまり他人にズカズカ来られるのが苦手なことを知っている梨都揮は、深入りしてこない。梨都揮のそういうところに、ボクはいつも助けられている。

「ありがとう。溜め込む前に話すって約束するよ」

「よし。指切りげんまんな!」

 ときどき、その純粋無垢な笑顔を見ると胸が締め付けられる時がある。

 多分、羨ましいんだ。大きな悩みを持っていないことが。


 ボクは、俗に言う

 自分で言っておきながら虚しくなってくるけど、でも、事実だ。

 ボクは、ゲイセクシャルというセクシャルマイノリティだ。

 横読みにしないで言うと、男性同性愛者。女性に恋愛感情や性的感情を抱かないこと。


 その自覚をし始めたのは、中二の秋。初めて、男子を好きになったことから。

 最初は、自分が持っていないものを持っている彼に対してを抱いているのだと思った。

 けれど、身体カラダというものは、正直なもので、抗えなかった。

 彼を想い、一夜を過ごして初めて、「ああ、彼のことが好きなんだ」と自分の気持ちが分かった。

 残念ながら、ボクの(男に対する)は、実らなかった。(告白しなかったボクが悪いんだけど)。

 それからは、女子に対して性的感情を抱かないどころか、恋愛感情まで持てなくなってしまった。


 ボクが、男子校へ進学を決めた理由は、『男子校にはゲイが多い』というネットの情報を見たからだ。

 でも、この高校に入って二年経つけど、ゲイセクシャルの人に出会ったことがなかった。


 やっぱり、ネットの情報を鵜呑みにしてはいけなかったのだろうか·····

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