第69話 よろずやキンタ、『栄養ドリンク』の性能限界を知る

 おれは目の前の『患者』に、戸惑いを隠せない状態でいた。


「これは……ヒールやハイヒールなど全く役には立たにゃいにゃあ」


 猫爺の回復魔法はおろか、おれの持つ『低級栄養ドリンク』ですらこの四肢損失には歯が立たない。

 かろうじて、顔やその他の表面の傷は治った。


「そうなのです。どんなに高名な回復師の方でも、この失われた四肢を元に戻すことは叶いませんでした」


「いや、爺。身体の表面の傷が消えただけでもすごいと思うぞ? それすら治らなかったのだからな」


「さようでございます、お嬢様」



 ここで初めて知ったこの世界だけのルール…… なんとも不可解な話だが……




【自傷行為による傷等は、回復ポーション及び回復系魔法では治せない】



 この世界に来て誰も教えてくれんかったんだが……


 つまり、ヴィオレッタが自爆することによってなされた傷の類はこの世界のルールでは治せないということ…… だが、四肢損失以外の傷は現に治ってるんだが、なんで?……



 じゃあ、まあ高級なやつで試してみるか……


「最上級のポーション(最上級栄養ドリンク)を使ってみます」


「済まぬな、キンタ殿…… 効果がなくとも恨みには思わぬでな」


 いやいや、うらまれちゃあ困るよ!


「では、これをお飲みくださいませ」


 結果……


「お嬢様…… なんというか……」


「むう…… 別な意味で驚きじゃな、これは……」


 効果はあった。あったんだが……


 四肢欠損は治らず、わずか一本で20代前半の美女は、10代半ばの美少女と変化したのである。


「う~ん…… これってこれ以上飲んでも若返るだけで、欠損部位は治せそうもないよねえ……」


 何かないかな…… 欠損部位を治せなければ、いくら若返ったところでこの場では意味がない。


「キンタ殿……これはこれで、後ほど詳しく話を聞かせてはくれぬかのお……」


「え? あ、はい! 商売の話ならいくらでも後で」


「しょ、商売か…… まあ、キンタ殿は商人であるしなあ、まあよい。やはりキンタ殿でもわらわを完全に治すことは無理か……」


 いや? 手がないわけじゃないよ?


 これ以上の栄養ドリンク? それは無理!


 ならばどうするか…… うまくいくかどうかはわからないが……


「もう一つ試させていただきたいのですが、条件があります」


「ほう? このポーションだけでも驚愕の性能じゃが、まだ何か手があるのか?」


「ええ。条件と言うのはこの場の5人だけの秘密にしていただきたい。まあ、うまくいけばそれなりの報酬はいただきますが……」


「それは構わぬ。どうせなにもせねば、わらわは一生日陰者として生きていく羽目になる」



「お約束いたします。決して口外せぬことを」


「口止め料は、キンタ様の魔力で~」


「ふぉふぉふぉ! 長生きはしてみるものだにゃ! キンタと一緒にいれば退屈せんですむにゃ!」


「では、ご了解いただいたということで……(【通販】)」


 おれの目の前に現れたのは、通販で仕入れた4つの物体…… 超合金製の義手*2と義足*2であった。



「これは義足とか義手とかいわれておるものじゃな? キンタ殿」


「ええ、その通りです。まあ、どこまでうまくいくかわかりませんが、右手からいきましょうか」


「う、うむ…… もはや一蓮托生。何も言うまい」


 いや……拷問するわけじゃないし、虐めてるわけでもないんだから、そんなに緊張しなくてもいいですよ?


 右手の義手をヴィオレッタ様の切断された部分に充ててセットしてみる。


「こ、これでどうなるというのじゃ?」


「【フィット】」


 おれが魔法を唱えるや否や、義手は自動的に大きさと色を変え、四肢のない少女の右手へと接続されていく。

 

 魔法とはかくも便利なものかと、使ってるおれ自身が感心するが、一般的にはそうではないらしい。


「な、なんと…… わらわの右腕…… う、動いた! 爺! わらわの右手が……動かせる!」


 つながった右手の義手は、傍目にはなんら違和感なく、元々の彼女の腕であったかのようである。


「見栄えもまったく違和感がない!」


「す、すばらしいです……キンタ様……」


「き、キンタ殿! はやく!はやくこちらの手も脚も頼む!」


「は、はい……かしこまりました。では!」


 続けて行った3回の魔法も無事完了。この間にかかった時間わずか数分……


「いかがでしょうか? まだセットしたばかりですので、歩いたり走ったりはリハビリというものも必要かと思いますが……」


 恐る恐るベッドから降り、立ち上がる美少女……どこそのアルプスのアニメを観ているような気分だが……


「爺……立てたぞ! わらわの脚が! わらわの手が! 元通りじゃ!」


「お、お嬢さま!」


 よろよろと数歩歩いた後、その美少女は泣きじゃくりながらも己の執事に抱き着くのであった。


「なんだかいいですね、キンタ様」


「うん、うん! 魔法はこういうことに使ってこそ魔法だにゃ!」


 マリアと猫爺も涙を浮かべている。


 まあ、しばらく感激のシーン……放っておくか……


 いくらで買ってもらおうかな~ なんて邪なことなんて考えてませんってば!


 この義手と義足…… この世界ではとんでもない性能を発揮することになるのだが、それはまた後日の話……


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