第4話 入浴
部屋からパジャマを持って一階の風呂場へと向った。いつもどおり一番風呂は譲れないと今日一日の混乱でかなり汗ばんだティーシャツとジーンズを脱ぎ捨て、風呂場に入った。ひどく湯気が立って鏡まで曇らせている。今日の私の気分の様だと思いながら、手探りでシャワーを掴みお湯を出してひとまず汗を流した。まだ酔いが覚めていないのか、お湯の熱でのぼせているのか、少し目が回ったが頭から一気にシャワーを浴びた。
高校の頃は野球部で頭は当然のように坊主頭、丸刈りだった。大学に入り野球は止めたが丸刈りはそのままだ。この髪型の手軽さが気に入ったのだった。洗った後、バスタオルで一撫ですればあっという間に乾いてしまう。今は朝からの違和感も落着いていたが出来るだけ鏡は見ないようにした。どこかでまだそれを恐れていたのだろう。
風呂場のちょうど向かい側にあるトイレから大きな物音が聞こえた。風呂場のドアの磨りガラスにつく水滴をそっと手で拭ってみた。父の影だった。私は自然に不快感を覚えた。父は昔から無神経な人だ。私が風呂に入っていようが、母が入浴していようが平気でトイレを使う。風呂上がりに下着だけで過ごす。そんな父が今ではおかしくもあったが、高校生の頃は不快な気持ちしか感じなかったものだ。豪快といえば聞こえはいいのだが。
一応、トイレの水が流れる音を聞き終えてから風呂場を出て、パジャマに着替えた。これは大学に入ってすぐに付き合った人からプレゼントされたものだ。ピンクに白のストライプは嫌いじゃない。その人にいまは何の思いもないが、四年生になったいまでも何となく着続けていた。
「真琴、洗濯物は洗濯機に入れといてね」
母が気を遣うようにドアの向こうから声を掛けた。
「分かってるよ」
私は答え、汗まみれのティーシャツとジーンズ、それにトランクスを洗濯機に突っ込んだ。
この時間になってもまだ気温は高く、汗が流れる。私はパジャマのズボンだけ穿いてキッチンでまた缶ビールを開け、扇風機の前で胡座をかいて涼んだ。
(続く)
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