天候生

夢水明日名

プロローグ

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空というのは毎日まったく違う表情を見せる。昨日とても美しく晴れていた空が、今日は厚い雲に覆われていたり、昨日激しく雨が降っていたはずの空が、突然洗い立ての布団のように、美しい青空を見せることもある。同じ晴れ他空でも、雲の量は日によって全然違う。数値的に同じように見えても、同じ天気になる日が続くことは珍しい。なぜなら、天気というのは、数値の上だけで簡単に決められるものではないからだ。

天気というものが決まる条件には、雲の流れやその季節の気候といった、証拠のはっきりしていることだけがすべてではない。天気というものにもっとも影響が大きく出るのは、その空を見上げる人の心である。どれだけ美しい太陽が青空からまぶしい光を放っていても、その人の心に雨が降っていれば、その人に日光が降り注ぐことはないだろう。どれだけ冷たい雨が降っていても、その雨を諸戸もせずに、水たまりに移った自分に笑いかけることができれば、雨の日でも美しく生きられる太陽のような存在になれるかもしれない。

もちろん天気というのは雨と晴れだけではない。どれだけ空が晴れていようとも、ひとりぼっちで心を閉ざしたり、肩を落としていれば、空はあっという間に曇ってしまう。どれだけ温かい南風が吹いていても、凍った冷たい心を持っている人がその風の中を歩けば、すぐに季節は冬になってしまうかもしれない。どれだけ雨が降る夜でも、人々が流れ星の存在を祈れば、奇蹟は起きるかもしれない。晴れ他空の人を、風を切って人が競争すれば、嵐が起きるかもしれない。

こんなふうに、空模様というのは、音のない変化の連続で、テレビに表示された今日の天気だけが、その空の下に広がる街の天気を決めるわけではない。人々は、突然変わるかもしれない天気にどきどきしながら、それでも空を見上げ続けている。

そんな、混沌とした空模様の下で、だれにもばれないように天気を操る人間がいる。それぞれの人間たちは、魔法のような力を使うものも少なくない。けれど、ほとんどの天気の操り手たちは、手荒なまねを好まない、普通の人間となんら変わらない少年少女なのである。彼らは多くの少年少女がそうであるように朝を迎え、1日の活動をして、家に帰る。しかし彼らの力は確実に、なにもない空の色をすぐに変えてしまうほどのものなのだ。

人々はそんな彼らのことを、「天候生」と呼んでいる。そんな天候生たちが、とある街のとある高校で作った小さな部活が、「天気研究部」である。

この物語は、そんな部活の高校生が、晴れたり曇ったり雨が降ったり雪が積もったり月が優しく光ったり星が輝いたり嵐が起きたりする空の下で生きている、何とも混沌とした記録である。その中には、今日笑ったあなたも、昨日ないた君も、明日誰かに怒るかもしれないおまえも、10年後誰かとキスをするかもしれない貴君も含まれているかもしれない。

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