第20話 触れる感覚
ふと唇をなぞられ、その感覚で目覚めた。
だが、すぐに目を閉じた。これは夢だとわかったからだ。簡素な椅子の固い感覚まであったが。
「真白、起きて?」
目の前の女は…僕の唇、両頬、瞼、再度唇に優しく触れた。
最後に優しく触れたものは、女の唇だろう。しっとりと濡れた皮膚と皮膚が触れ合った。
「真白、聞こえているんでしょ?」
目の前の女は、僕の大好きな声で語りかけてくる。
だが、イントネーションや感情の込め方が明らかに違うのだ。
「ねえ…もう一度私を見て…」
艶かしく乞う女の声にたまらず目を見開く。
これは夢だ。桐谷さん…いや桐谷さんそっくりの女が跪いて潤んだ瞳で僕を見ていた。
「嬉しい…」
女は僕の手をとり口づける。
手の甲、親指、人差し指、中指、薬指、小指…丹念に優しく女は口付けていった。
僕はぞくりとした。服従するような女の行動に、興奮と同じくらいに吐き気を覚えたからだ。
「いつも、私にこうしてほしかったんでしょ?」
再度、女はしっとりと唇を重ねる。
「やめろ…!彼女はそんな事はしない…お前はただの幻像だ!」
「いいのよ。あの子がしない事も…どんな事でも私はしてあげるわ、本当よ」
目の前の女はイタズラに微笑む。
「わかってる。これは夢だ!だからといって僕を惑わすのはやめてくれ!」
「いいわ。今は受け入れられなくても…長い付き合いになるでしょうから…よろしくね?」
女がコツンと僕のおでこをつくと、僕は再び深い眠りに落ちていった…
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