テルクシノエーは泡と消ゆ
QAZ
テルクシノエーの水槽
天を仰ぐと、きらきらと水面が輝いている。ごぼっごぼぼっと空気がこの場所を通り抜ける音が頭の中に響いてくる。水面に乱反射した青い光が規則正しくゆらゆらと揺れ動いて、わたしの尾ひれを照らす。わたしの半身は七色の鱗に覆われて、艶やかに輝いている。ふわふわと尾ひれが舞うのを手で払いのけて、身を翻してみせる。ターコイズブルーのこの部屋の中でゆらゆらと踊り続けるわたしに合わせて、アクリルガラス風の無色透明な壁の向こうに見える人だかりが、ゆらゆらと揺れているのが見える。
***
「ふぅ…疲れた…」
今日の配信時間が終了し、”
ヘッドギアで汗ばんだ額に、前髪が絡みついて気色悪い。薄暗い部屋の中をモニターが蒼白く照らす。脱ぎ散らかして部屋中に散乱した洋服や、放り投げられた鞄からはみ出した教科書たちが視界に入ると、一気に現実に引き戻されて、吐き気がする。わたしはベッドに身を投げ出して、柔らかな枕に顔を埋めた。まともな片づけなどもう数週間はしていない。
「誰が見るわけでもないのに片づけるのは、面倒だわ…」
微睡の中で、ふと自分の人生を思い返す。15歳の時に両親が他界して2年、それなりな遺産を相続したわたしは自由気ままに生きていた。地味で根暗なわたしは大した友人もいないし、自堕落な生活を送っている。
***
学校へは殆ど致し方なく行っていた。今日も数時間は保健室で過ごし、教師に促されて1時間だけ教室に行った。苦痛の時間だ。こうなったきっかけは両親の死だったと思う。しばらく不登校になり、ギリギリ卒業できる日数を保健室登校でやり過ごしている。テストは95点以上しか取ったことはないし、授業を受ける意味も感じなかった。そんなわたしは教室の中でも明らかに浮いていた。
わたしにとってここは光の届かぬ深海だ。教壇に立つ教師が何か懸命に生徒たちに話しているけれど、まるでわたしの耳には入ってこない。この苦痛の時間は、いつも水槽の中にいる想像をして過ごす。魚顔のセンセイウオがぶくぶくと何かをまくしたてる。クラスメイトは半分がイソギンチャクで、もう半分は貝かヒトデ。その中を七色の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます