第三話 ツバキと、嘘と、
…あの日以来、学校に行けないツバキは病室でリモート授業を受けているらしい。今日も病室をノックする。
「おはよ、ツバキ。」
「やっほーミズキ、今日学校どうだった?」
どうもこうも、いつも通り授業は真面目に受けてはいなかったが。
ツバキが聞きたいのは部活のことであった。実は私たちは2ヶ月後の8月に重要な大会を控えている。
「練習は順調だよ。揉め事も解消したし、あと2ヶ月全力で頑張るだけだよ。」
部活では先日まで揉め事があった。というのも、三年生によるセンターの競り合いが口論に発展していた。うちは熱心な高校なだけあって、火花散る切磋琢磨はザラにある。
「そう、それは良かった。私、ミズキたちを絶対テレビで観てやるんだから。」
その大会は国営放送が企画したもので、テレビで生放送される。
ツバキの言うテレビは彼女の目線にある棚の少し左にある。
「ツバキは調子どう?」
「全然、いま信じられない早さで回復してるって。」
「ホント!?」
そういえば彼女の喉に刺さっていたチューブが外れている。
安堵この上無く、「良かった」と言葉が心から漏れた。
いつも通りツバキとハイタッチをし、病室から出た。
部屋を出て右を行き、廊下をまた右へ曲がった途端。
ドスッ
「あっ…すみません。」
顔を上げて、相手の姿を見た。私が当たってしまったのはツバキの担当医師であった。
「あぁ、もしかして“ミズキ”さんは貴女かな?」
私はぶつかった弾みで落とした蓋の開いていないリップクリームを拾いながら応答した。
「…はい、そうですけど。」
「君とは少々話がしたい。そこのベンチへ。」
促されるまま白衣の手の先にあるベンチへ座った。
担当医がよいしょと座って、ふうっとため息をつき、私に彼女の事を話し始めた。
「突然だが彼女の病状を知っているかね。」
「…良好な様子ですよね。」
「やはりか…。」
「どうかしたんですか?」
「どうやら彼女は貴女にだけ隠しているらしい。」
担当医は一度息を飲み、それを吐いたあと告げ口を続けた。
「実は彼女の容態は日重ね悪化している。」
え…。
「彼女、チューブの装着が常時義務付けられているのは知っているかい。」
……いえ。
「そうか…。どうやらあの人は“ミズキ”という人と会う時だけ外しているようだ、危なっかしい。」
…。
「その友達は恐らく貴女の事だろう。実は彼女の病は進行が読めない。つまり、明日突如として悪化してもおかしくない。呼吸不全とあるが、症状は呼吸器だけでは無い。癌と同じで、臓器へ、もしかしたら脳まで及ぶかもしれない。全く細胞の異変は恐ろしいものだ。」
…。
「彼女にとって、私たちが問題なく吸っている空気て呼吸をすると、病気を刺激しかねない。そのためにチューブが必要でね。だから彼女の外すという行為は自らの病気を進行させているようなものだ。」
………。
「そこで提案がある。どちらかを選んでくれ。一つは彼女に、安静にしろとあなたの口から伝えること。二つ目は
────これより一切彼女に会わないこと。」
…わかりました。
───
私はツバキの病室へ戻った。
「あれ?ミズキ何しに来たの?」
俯いたままベッドの横につく。
「なんで…
……なんで嘘ついたの!?」
突然の私の叫喚にツバキの顔は引きつった驚きを見せていた。
「回復してるんだよね?さっき言ったよね!?」
肩を掴んで詰問する。彼女は首ごと私から逸らした。
「さっきお医者さんから聞いたよ?ツバキが悪化してるのを、私にだけ嘘ついてるって。…。」
「…ミズキ……。」
私は肩を突き放し、彼女に背を向けた。
「ツバキに無理させたくないし、
────もう来ない。」
…待って!!
私の腕が強く掴まれた。
────私、あなたがいないと生きれない……
……だから…また……来て欲しい…。
…。
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