第4話 悪気は無かったんです。ただ揺れには弱いんです。

 スライムを倒しても自然消滅はしていくものの、ゲームのようにアイテムがドロップすることは無かった。

 どうやらちゃんと剥ぎ取って回収しなきゃいけないようだ。

 そんな知識、俺には無い!

 だって、DSOではそんなことしなくてもよかったから……。


 というわけで、あの後スライムを軽く20体ぐらい倒した。

 だけど、俺はまだDSOをプレイしているときのノリのようで、何もアイテムを回収することが出来なかった。

 アイテムをしまうバックパックも無ければ、スライムジェルを入れるような瓶も無い。

 そうか、この世界ではドロップしなくてアイテムボックス機能も存在しないんだな。

 まったく……なんて不便なんだ。


 しかし、悪いことばかりではない。

 2回レベルアップした。

 レベルアップの瞬間はゲームと変わらなかった。


『レベルが上がりました』


 と、突然脳内に声が流れるのだ。

 なんで透明スマホは無いのに、声は聞こえるんだろう。

 よく分からないけど、ここはそういう世界なんだと受け入れるしかない。


 スライム討伐から帰ってきた俺は宿屋に泊まった。

 一泊3000ソウルだった。

 夕食込みだ。

 かなり良心的といえるだろう。

 残金52000ソウル。


 翌朝、俺は神殿に向かい、無事盗賊に転職することが出来た。

 ちなみにレベルアップで上昇したステータスの値は全て+1だった。

 喧嘩を売っているとしか思えないようなゴミさ加減だった。


 しかし、これで俺も脱ニートだ。

 ……本当なら日本でちゃんと脱ニートしたかったけど。

 だが脱ニートしたことによって、ステータスは少し上昇した。



 [ 名 前 ] レイジ・カトウ

 [ 年 齢 ] 19

 [ 職 業 ] 盗賊

 [ レベル ] 3

 [ H P ] 25

 [ M P ] 20

 [ 攻撃力 ] 15

 [ 防御力 ] 10

 [ 持久力 ] 10

 [ 俊敏性 ] 15

 [ スキル ]



 俺はやっとまともになれたようだ。

 心なしか身体の調子も良い気がする。

 これがステータスの影響力なのかもしれない。


「なあアイツ、盗賊に転職したらしいぜ」


「モノ好きもいたもんだよなぁ」


「見た目も弱そうだしな」


 俺と同じように転職しようとしている奴らがそんなことをコソコソと言っていた。


 もしかして盗賊って人気なかったりするのか?


 そこら辺はVRMMO時代を受け継いでいるんだな。

 なにせ盗賊はステータスの伸びが悪いし、戦闘向きでもないからなぁ。


 ……ま、いっか。

 俺にとって盗賊が最適解であることには違いない。


 さて、それじゃあ盗賊になれたことだし、さっさと隠しスキルを取りにいくとしよう。

 これがなきゃ盗賊になった意味が何もないからな。

 安全性を確保しながら最大限に効率を求めて行こう。

 のんびりやってたらいつまで経っても日本に帰れなさそうだ。


 というわけで俺は戦闘用の細剣を武器屋で30000ソウルで購入し、馬車の停留所にやってきた。

 DSOの移動方法は沢山あったが、公共機関を利用するもので一番コストのかからないのは乗合馬車だ。


 NPCも乗合馬車を使って移動している、という設定は一応あったみたいだが、NPCは自分の持ち場を離れることは無いため、乗っているのはプレイヤーだけだった。

 てか、そもそもDSOはストーリーというものがほとんど無い。

 プレイヤー主体でどうぞ楽しくやってください、というある意味MMORPGの本質を突いているような運営だった。

 その分飽きさせないイベントなどが高頻度で開催されていたのは見事という他ない。


 俺の行先はヒヤル村。

 特筆するところは何もないただの田舎だ。

 料金は1000ソウルでこれもゲームと然程変わらない価格だった。


 乗合馬車には冒険者が3人と行商人が2人乗っていた。

 ここでも少し感動を覚えた。


「そちらはアルトバーレに?」


「ええ。あそこは冒険者が多いですからなぁ。回復ポーションを持っていけば、多くの商会がとりあえず購入してくれるんですわ」


「景気が良いですね〜。私はエイシアにいる知り合いの商会に最近仕入れた包丁を売りに」


「ハハハッ、お互い忙しいですなぁ」


 行商人2人が愉快そうに話している。


「お、魔物が出たぜ」


「よっしゃ、俺達が華麗に仕留めるとするか」


「だな。ゴブリンぐらい楽勝だぜ」


 道中、現れてきた魔物は冒険者3人がやっつけていた。

 しかし、俺の格好を見て冒険者だと判断した3人は俺にケチをつけてきた。


「なんか一人、役立たずがいるよな」


「だよな。恥ずかしくねえのかなアイツ」


「顔色も悪そうだなしな、情けねえ」


 ああ、冒険者って感じがして良いな。

 だけど、俺は今それどころじゃないんだ。



 ──完全に酔った。



 馬車酔いだ。

 ダメだ、これ。

 もう無理。

 吐く。



「オロロロロロローーーー」



 俺はついにその時を迎えた。



「ぎゃああああああああぁぁぁぁ!」


「なんだこいつ!? ふざけんじゃねェ!!!」


「きったねええぇぇぇ!!」


 嘔吐物は冒険者3人にかかり、彼らは叫んで怒っていた。


 他の乗客もドン引きしていた。


 すまん、みんな。

 これがニートなんだ。

 あ、いや元ニートか。


「ごべんなさい……」


 とりあえず俺は謝っておいた。



「おいおいちょっとお前ら、そんなことしてる場合じゃねえぞ!」



 今度は馬車を運転している御者が大きな声をあげた。

 一体何があったのだろうか。



「出たんだよ! 化物が! Bランクのサイクロプスが出ちまったよ! 急いで引き返すから馬車から落ちないようにしっかりつかまっててくれ!」



 サイクロプスはHPが1200。

 攻撃力が1500。

 他のステータスは覚えてないけど、ぼちぼち高い。

 スライムと違って自ら人を襲ってくる。

 序盤に出てきたら全滅不可避のモンスターだ。


 こんなところに生息しているはずないと思うけどなー。


 なんで出てくるんだろうなー。


 これが現実世界かー。



 ──って、ふざけんじゃねえ!!



 早くも死の危険に晒されるとか……マジで運が無いな。

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