ロック好き文字書きのジレンマ。
私は文章を書くことが好きで、他のことに比べればまあ、得意なほうだ。
上手いか下手かはわからないけれど、本を読むのは小さい頃から大好きで、これまでに数えきれないほど――ジャンルに偏りはあるが――読んできた。だから、それなりに読む力はあるはずだし、自分で書いているものも、あれだけ何度も書き直して、推敲して、それなりに納得いっているのだから、まったくのド下手糞ではないだろう……と、そう思っている。
私は音楽を聴くことが好きで、特に六〇年代、七〇年代のロックなどを聴いていると、ああもうどうして自分はこの時代に生まれなかったのだろうと、思わず歯噛みしてしまうほどだ。
何故かはわからない。わからないけれど、あの日、ラジオで〝
新聞のFM欄に印をつけ、待ちわびて聴き入りながらエアチェックしたカセットテープ。棚の中にずらりと並べたたくさんのヴァイナル盤、コンポーネントステレオの横のスタンドに収めたCD。そして今は、PCのミュージックフォルダと、Spotify のプレイリスト。
時代につれ媒体が変われど、私の聴く音楽はほとんど変わってはいない。ハードロックやオルタナティヴロックなど、ちょっと好きなものが増えただけだ。
二次創作をやっていた頃にもブログは持っていたが、オリジナル小説を書くようになってから拠点のような場所が欲しくなり、また新たに開設した。
そのとき、最初は Tumblr を選んだ。デザインを自分でカスタマイズしやすいというのがその理由だったのだが、使っているうち、画像やなにかをただ貼るだけ、という、Tumblr 独特の使い方が増えていった。私が貼ったのは、六〇年代、七〇年代などの大好きなロックの名曲の数々である。
YouTube や Spotify を利用して、コレクションのように、ただ貼る。ゾンビーズの〝
私は偶に、独り言というカテゴリーでびっしりと文字の詰まった文章を書いたりもしていたが、むしろそういう使い方をしているユーザーのほうが少なかったのではないかと思う。
とはいえ、好きで布教のようなことをしたいのならただ曲を貼るだけではなく、もっとレビューなりなんなり書けばいいのだと思う。それはわかっているのだが……だめなのだ。
私は音楽が好きだ。そして、文章を書くのはまあ、たぶん得意だ。
自分の大好きな音楽を、文章で紹介する。この曲にはこういうエピソードがあって、この部分の演奏がどうで、こうだから大好きで――私は、それを書くことがどうしても苦手なのである。というか、厭なのだ。
巧く書こうとすればするほど、文章は、私がその曲を聴いたときの感動や興奮から離れていくからだ。
では、聴いたときのあの感動を思い起こして、そのまんま書けばいい。なるほど、やってみよう――もうあの、イントロのヂャーンからかっこよくて、鳥肌がたって、全身の血液が沸騰する感じで、とにかく最高で――
…………。書いていてもう厭になってきた。どうやら、好きすぎると失語症に陥るらしい。
否、いちおうちゃんと、それらしく書くことはできると思う。だが、そうなると今度は『巧くそれらしく書いた音楽レビュー』のようになってしまって、私の想いとはかけ離れてしまうわけだ。
余所様が書かれているものはいいのだ。そういう聴き方もあるのかと楽しませてもらえたり、歌詞の繊細な解説など、自分では到達できないところの感動をもらえたり、とてもありがたい。
でも、きちんとなにかの楽器を習ったこともなく、知識に偏りがあり、自分の感性だけしか頼りのない私に伝えられることは、「いいから聴け」くらいなものだ。
どんなにその音楽の魅力を書いたとしても、たぶんうんうんと読むのはその音楽を既に知っている、好きな人がほとんどなのだと思う。そして、まだその曲を知らない人に魅力を伝えようとするなら、やはり音に優るものはないのだ。もちろん、素晴らしいレビューはネット上にもたくさん溢れているけれど、そういうのは聴いたあとから補足的に読めば充分だ、と個人的には思う。
なので、私ははてなブログに移った今も、相変わらずぺたりと曲を貼り続けている。
――最近は、それにアルファベットを三文字添えることが増えてきて、ちょっと寂しいけれど。
嘗て私が、〝 Please Mr. Postman 〟を聴いてその瞬間、電流に撃たれたようなショックを感じたように――私がブログに貼った曲を何の気無しに聴いてみて、たとえば、まったく知らなかったけどゾンビーズにハマった、なんて人がもしもいたりしたら、とても嬉しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます