巨人の国にきた
くろやす
第1話
ふかふかした布団に転がり心地よい。周囲から優しい声が聞こえ目を開けるとなんと、目に前にあったのは大きな顔だ。
巨人‼
驚きで体が震えた。逃げようにも体が思うように動かない。手足を振ることはできるのだがそれ以上のことが出来ない。大きな顔がさらに近づいてくる。食べられると思い、声を上げようとしたが上手にでない。
やっと出た声は「あー」という一文字の音であった。どんなに頑張ってもそれしか出ず焦れば焦るほど言葉にならない。
遠くの方から声が聞こえると大きな顔は離れていった。しかし、安心したのは束の間だった。突然、僕は宙に浮いた。自分自身の力ではない。さっきの大きな顔の主が持ち上げたである。恐怖しかない。一文字の音しか出ないがそれでも力いっぱい抵抗した。
しばらくすると女性らしい声がした。するとおおきな顔はその女性に僕を渡したのだ。この女性も巨人であるがいい匂いがする。それは、心地よく気持ちが落ち着いてきた。安心するとなんだか眠くなってきた。いい匂いの女性巨人が僕をゆっくりと揺らした。その揺れがまた気持ちがよく眠くなってしまった。
しばらくして目を覚ますとさっきとはまったく違う場所にいた。手で下を触るとふわふわしており布団ようだ。必死に首を動かして居場所を確認すると周りは木でてきた格子に囲まれていることに気づいた。それに触れようとするが手が届かない。身体の状態はさっきと変わらず、首と手足は動くが身体が動かない。
耳を澄ますと近くで複数の赤子の泣き声がする。やばいところに連れてこられたようである。逃げたいが身体が動かない……。何度か体を揺すると左右に動くことができた。力いっぱい揺すると勢いで転がり、うつ伏せになれた。動けたことが嬉しく思った。
うつ伏せになった瞬間まわりから歓声があがった。その声から僕は人体実験をされているのかもしないと思った。きっと投与された薬のせいで身体が動かないだ。
監視されているようであるが僕に危害を加える様子がないので安心した。前に進もうと手足を動かすが上手くいかない。自分の体を動かせないほど太ってはいないはずであるがビクともしない。ダイエットが必要だと感じた。長時間うつ伏せでいたため身体が疲れてきた。手足を下ろして、更に上げていた顔を下ろす。
「う……」
顔を下にしてしまったため、下にあった布団に埋もれ呼吸ができなくなってしまった。必死に頭を上げようとするが重くて持ち上がらない。さっきは持ち上げられていたはずなのにおかしい……。顔を上げていたから体力を消耗してしまったようである。
僕の身体は一体どうしてしまったのであろうか。やっぱり薬を盛られて知らない場所に連れてこられたとしか考えられない。周りで泣いている子どもたちも、きっと僕と同じように連れてこられただろう。色々考えたかったが頭がぼんやりしてきた。
「あっ」
突然大きな声が上がったかと思うと、苦しくなくなった。どうやら持ち上げられて呼吸が正常になったようだ。本当によかった。僕を抱き上げた巨人は頭をなぜた。それがまた気持ちがいい。頭なぜられるって最高だと感じた。するとなんだかお腹が空いてきた。それを抱き上げている巨人に伝えようとするが言葉がでない。口から出たのは「あー」という音である。何度挑戦しても一文字の音しかでない。盛られた薬は身体だけではなく声にも影響するようである。仕方がないためその一文字の音で空腹を伝えるが巨人は僕をクッションの上に置いて行ってしまった。僕はこのまま餓死してしまうのであろうか。
「あー」
精一杯の声を出すが誰も来ない。涙が出てきた。どれくらい泣いたか分からない。お腹が空いたし言葉は伝わらないしもうダメだと思ったその時、口にゴムのチューブを入れられた。反射的にそれを吸うとそこから生温い液体がでてきた。それはすごくまずかったがお腹が空いていたためすべて飲み干した。
早く帰って美味しいものが食べたい。
まずい液体飲んだ後はまた木でたきた格子の中に入れられた。さらに今度は身体の左右にクッションを置かれたため左右に体をふることができなくなってしまった。見えるのは天井ばかりだ。この動けない状況がとても嫌だったので、声を上げた。すると女性の巨人が現れた。僕に笑顔で手を振ってくれる。助けてくれるのかと思い大声をあげて必死に手を伸ばしたが投げキッスをするとそのまま去ってしまった。
あり得ない。
投げキッスをするほど僕に好意があるなら助けると思う。何度も声をあげるとまた涙が出てきた。どうやら薬のせいで涙腺も緩んでいるようである。あまりに声が大きかったようでさっきの投げキッスをくれた女性巨人が抱き上げてくれた。この投げキッス巨人はいい匂いがする。以前あったいい匂いの女性巨人と匂いがよく似ているため心地よい。投げキッス巨人は僕を抱き、窓の方へむかった。逃がしてくれるのかと期待したが、投げキッス巨人は窓の外を指さて何やら話しかけてくるだけであった。どうやら逃がしてはくれないようである。投げキッス巨人はたくさん僕に話をしてくれたが巨人語だったので理解することはできなかった。
投げキッス巨人は巨人語で歌をうたいながら僕の体を揺すった。これは催眠方法のようで眠くなる。まぶたが重くなるが必死に抵抗した。しかし、失敗して夢の中に落ちていった。
目を覚ますと当たりは真っ暗であった。僕はまた違う場所に連れてこられてしまったのかと思い大声を上げた。恐怖で涙が出てくる。すると投げキッス巨人が現れてすぐに僕を抱き上げた。彼女は急いできてくれたようで息が荒い。どうやらこの投げキッス巨人は僕に好意があるらしい。そう思うととても嬉しくなった。
僕は言葉を話せず、動けない体にされてしまったが愛してくれる人がいた。僕も彼女の思いに答えようと顔を擦り付けた。彼女は理解してくれたようで優しく微笑むと頭をなぜてくれた。そして背中をなぜながら体を揺すった。この幸せな時間が続けばいいと思った瞬間、光が入ってきた。それに驚き声と共に涙が出てくる。涙腺が緩む薬のせいとはいえ、これくらいの事で男が泣くなど情けないと思う。しかし、彼女はそんな情けない僕の背中を優しくなぜてくれた。恥ずかしかったが受け入れられて嬉しかった。
その光はどうやらカーテンを開けたために入ってきたものらしかった。害があるものでなくて安心する。身体が自由に動けないため周囲の状況がわかりづらい。
気持ちが落ち着くとお尻のあたりで違和感があった。便意を感じ、我慢ができずにそのまま出てしまったのだ。こんなことは初めてである。これも薬にせいだ。
投げキッス巨人が何かを言っている。きっと抱っこしていた男が便をもらしたので幻滅された。僕は恥ずかしかったが身体が動かずどうすることもできなかった。できないが彼女に嫌われたくなかったから必死に一文字の音で僕も思いを伝えた。彼女は優しい笑顔で見ると何か言ってから歩きだした。そして部屋の隅にある台の上に僕を寝かして下の世話をしてくれたのである。
それには驚愕した。まさか下の世話までしてくれるとは思わなかった。僕は身体が動かないから誰かにお願いしなくてはならない事は知っていた。自分がオムツをはいているのもお尻の感触で薄々気づいてはいた。
もとの健康な身体に戻ったら僕は彼女の気持ちに答えたいと思った。種族の違いがあるが構わない。ここまで僕を認め受け入れてくれる女性は他にいない。
お尻が綺麗になると遠くの方で聞き覚えのある声がした。ちょっと前にあったいい匂いの女性巨人である。投げキッス巨人は僕を抱き上げるといい匂いの女性巨人の方に連れて行った。そして何やら話をしている。この巨人語を覚えなくてはいけないとおもった。これを覚えれば投げキッス巨人と会話をすることができる。今日のお礼と僕の思いを伝えたいと思った。そして名前も知りたい。そんな事を考えていると投げキッス巨人はいい匂いの女性巨人に僕を渡したのである。
信じられない。あんなに愛してくれたのに簡単に別の女に渡すとはどういうつもりだと思った。だから大声で訴え、投げキッス巨人の服をつかんだ。するとあろうことか投げキッス巨人は僕を引き剝がしていい匂いの女性巨人渡したのだ。
愕然とした。
投げキッス巨人の愛はその程度だったのか。信じられないと思い大声で泣き叫んだ。僕がこんな悲しいのに彼女たちは笑っている。
僕を受け取ったいい匂いの女性巨人は笑いながら私に何か言っている。そして、鏡を見せてきた。そこに映った自分に目が違った。
鏡に映っていたのは赤ん坊だった。
そんな……。
僕は昨日まで普通に仕事をしていた。つまり、赤ん坊になってしまったようだ。
投げキッス巨人をよくみればエプロンをしてにこにこ笑っている。保育園の先生?
いい匂いの女性巨人はスーツ姿である。もしかして母親?
まさかの人生やり直しに頭が痛くなった。
巨人の国にきた くろやす @kuroya44
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