No.RAW

潤木一和

序章

『緊急事態、緊急事態、至急対応対象オペランドは配備についてください。繰り返します。』


 けたたましいサイレンが、無機質な建物全体に響き渡る。基本的に白く清潔に保たれた屋内。廊下にはいくつものドアがついている。ドアの横にはそれぞれネームプレートがある。【S-Ireclef】と書いてある研究室にいた金髪赤目の少年が慌てて書類を置き、部屋の外へと飛び出した。取り残された部屋にいた青年はため息を吐いた。光に当てると少し紫に輝く白髪が揺れて、黒い目が少年の残した資料をとらえた。

「行ってきますでも言ったら、いいのに…。」

 誰が聞いてるでもないその声は、機材に吸い込まれた。


 研究室が立ち並ぶ先ほどいた建物とは、一線を画した風景が広がっているところに少年は立っていた。片手にはアサルトライフルを手に持ち、がたがたとした地面の上にいた。機械でできたゴーグルのようなものをはめて、研究室とは違い前髪を上げている。ゴーグルのガラス越しに見える赤い瞳が、周辺に目を光らせていた。

 少年の周りには、同じような服装、装備、年齢層の人がいる。遠くに研究室があったとても大きい白い建物が、そびえたっている。建物の手前には、森とまではいかなくても木が並んでる。ここは生物区画と呼ばれ、研究の実験に使われた生物が飼われている。今回のサイレンの理由は生物の脱走だった。それを掃討するために少年らは駆り出された。


 この国では人には階級が個人単位で与えられている。同じく義務教育を受けた直後に受けさせられるテストで割り振られる。

 研究階級アレイ、助手階級オペランド、生産階級フローの三つに分けられる。全ての階級で平等ではないが衣食住のは確保されている。制度としては成り立っている、頭脳指数が最も高い人が国を発展させるために研究を行い、次に高い人がそれを手伝う。頭がよくないものは流れとして、生産ラインにつく。実験生物が逃げたり、試験薬のテスターをしたり、といったアレイに関係する面倒事はすベてオペランドが対応している。今回のような掃討も彼らにとっては日常の風景だ。


 森に近いオペランドが声を上げた。少年はアサルトライフルを森に向けて、スコープにゴーグルがぶつけながら覗く。すると森から音を立てて、首輪をつけた顔が三つあるライオンが顔を出した。逃さず胴体に麻酔弾を打つが一向に効く気配はなかった。しかし、それを皮切りに数人のオペランドによるダメージで無力化された。ゴーグルから伸びたイヤホンに電子的な声が響く。

『事態収拾、基地に武装を置いて、通常業務に戻ってください。』

 言葉に従い、少年は身の丈に合わないアサルトライフルを担いで基地に戻る。無力化されたライオンもどきは運送用の大きい機械に回収されていくのを少年は横目で見る。


 基地に向けて移動する浮遊した運搬車に乗り込むと、隣には少年のよく見知った人物だった。色のうすいくすんだ赤色の少し短い髪の同い年ぐらいだが、少年よりは身長の高い知り合いだ。

「よう、62(ロニ)ィ~!」

「59(ファナイ)元気です?」

「元気だよぉ~。ロニは順調そうじゃん」

 知り合いの顔に安堵する少年ロニはゴーグルを外して、上げていた前髪を横にいるファナイにぐしゃぐしゃと下ろされる。彼は、腕に少し傷を負っているいたそうだ。ロニは彼に遠距離のが効率的だから買ったほうがいいと言えば彼は陽気な笑顔を伏せた。

「そんな給料はもらえてないんだ。近距離でもロニみたいに銃弾を用いるものはちょっと厳しいかな。」

「資源は有限ってことですよね。確かに値が張りますが、私に身体能力ないので…。」

 島国であるこの国では、文明は他の国とくらべものにならないほど発展しているが、資材は足りなすぎる。知識は無限、資源は有限とスローガンが多めに掲げられ、知識と引き換えに他国から主に資源を得ている。知識の流通は難しい時は派遣も行っているが、多くの人がこの国から出ずに一生に終える。閉じた国だ。


「ロニの言いたいこともわかるが、僕の主人より、そっちのアイルさん?は可愛いロニに甘いからな。たまにおやつももらってるらしいしな?」

 アイルクリフ様です。とロニはすぐに返答した後、困ったように続ける。

「えーとおやつくれる行為自体はわからないんですけど、いきなり仕事中にあげるといわれて、もらうんです。そしたら、おいしいかずっと聞いてくるんです。甘いのはおいしいのですかね…?」

 首をかしげて真剣に悩む、あまり感情に敏感な人間ではないロニに、表情豊かなファイナイには笑われる。しかし、ロニと仲がいい彼は少し理論的に解体して話してくれる。

「糖はエネルギーだし、おかしは余分な糖と油でおいしいと思うけど。というかほんと、うらやましい。」

「私でもいい環境なのは理解できますね。このまま続けばって思います。」

 二人の会話を遮るように、ロニの付けたままだったインカムに声が聞こえる。基地についた後に、管理者室に来てほしいとの内容だった。

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