夏・流星・鵺の啼く

アオイ・M・M

第一章〝枠〟

**序**

―――吾続アツヅ ツカサ は夏が嫌いだ。


暑いし、虫が多いし、好きな奴なんているんだろうか。

だけどこの森の夏は好きで、祖父のオサムと良く遊びに来た。


夏の空が好きだ。

オリオン座を教わり、プレアデスを探したのを覚えている。


その祖父はこの春に死んだ。


唯一の男孫、――つまり司を溺愛していた祖父は遺産を残した。

この夏に16歳になったばかりの少年ツカサに、この山を1つ。


正式な手続きは18歳の成人を待ってからの事ではあるが。

それでも祖父との思い出の詰まったこの山は、吾続 司の所有物になった。


それが理由だったわけはないが、司は祖父との約束通り。

自動車学校に通い普通免許を取った。

バイトをし、金を溜め、中古のボロい軽自動車を買った。


夏を前に、16歳になった司のもとに免許証が郵送で届いた。

夏が来て。

ボロの相棒愛車で舗装もまばらな山道を登り、テントを張った。


最近足腰が弱って来てな、とカラカラと笑った祖父に。

司は免許を取ったら自分がのせてってやるよと約束したのだ。


だが、その祖父は夏を待たずに死んだ。

脳卒中だったという。


縁側で春の満月を眺めながら、穏やかに逝ったと祖母は語った。


山の中腹の祖父と孫だけが独占し続けてきた私有キャンプ場。

そのど真ん中に、下草の生え始めた土の上に寝袋を敷いて転がる。


星空は変わらず奇麗で、そこにはもう祖父はいない。


―――だから、吾続 司は夏が嫌いになった。









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