第3話
とある日の昼下がり、僕の睡眠は呼び鈴により妨げられた。
この時間帯、両親は仕事にでており、家にいるのは僕だけだ。僕はウトウトとしながらも、条件反射的に玄関を目指していた。
玄関を開けると、そこに居たのは件の謎の女性であった。近くで見ると、より一層、美しく見える。
ほのかな芳香が鼻腔に届く。僕は唖然としていたことだろう。
途端に彼女が鈴の音のような声で言葉を発した。
「お前の願いを何でも一つ叶えてやろう、お代は……まぁ、ただで良い」
急に、そんなランプの魔人的なことを言われても困る。
「えと……どう言う意味ですか?」
「そのままの意味だ。お前の望む願いを一つ叶えてやる。例えば大金持ちになりたいとか、不老不死になりたいとか、アタシが全力を持ってお前の願いを叶えよう」
ますます分からない。彼女は幼なじみの親戚か何かで、今は僕の願いを一つ叶えるなどと、素っ頓狂な事を宣っている。
「どなた様でしょうか?」
「ああ、アタシの名前はナマアだ。よろしく頼む」
名前はナマアと、随分と変わった名前だ。日本人ぽくないな、そう言われてみれば、目鼻立ちも日本人というよりかは、少し毛色が違うように見えなくもない。
「さぁ、願いを言ってみろ。アタシが叶えてやる」
何故、彼女は僕の願いを叶えようとするのだろうか? 疑問は湯水の如く湧き出てくる。とにかく、彼女は新興宗教の勧誘と同じ類の人種なのかもしれない。
今までの発言や行動を鑑みると、彼女が固定概念やら常識やら普通やらの知識に疎いことが伺える。つまりはヤバイ奴なのだ。
こういう人間には極力関わらない事が吉となる場合が多い、僕は尻すぼみに言った。
「ええと、ご好意は嬉しいのですが、急に言われても困ります」
「困ることはない、お前が今渇望してやまない何かを、アタシに伝えれば良いんだ」
となると、僕の望みは一つ、再び幼なじみに会うことである。
「けど、アタシにも出来ないことはある。それは、二つ。人を殺すことと、人を生き返らせること。この二つ以外だったら、なんでも叶えてやる」
では、幼なじみはその出来ないことの二つ目にあたるので、僕の願いは叶えられないということだ。と言うか、何、ジョークにも満たない虚言を本気にしているのだろうか、僕は。
「大丈夫です、間に合ってます」
僕は強引に玄関を閉じようとすると、彼女は慌てた様子で、扉と壁の隙間に足を滑り込ませ、玄関を閉じれなくして言った。
「待て、まぁ、確かに、急にこんなこと言われても困るかもな、お前、携帯は持っているか?」
「なんですか? まぁ、持ってますけど」
「ちょっと、寄越せ」
「いやですよ」
「いいから!」
僕は気迫に負け、彼女にスマホを手渡した。
「パスワードは?」
「言わなきゃダメですか?」
「そうだ、パスワードは?」
僕はしぶしふパスコードを言った。彼女は僕のスマホのロックを外し、何やら、一通り操作する。後、彼女は僕にスマホを返却した。
「アタシの連絡先をお前の携帯に入れておいた、お前も知っての通り、アタシはお前の幼なじみの部屋にいる、願いが思いついたら、アタシに連絡を入れることだな」
そう言葉を残すと、彼女は幼なじみの家の方に歩いて行った。僕の脳内には、彼女に関する様々な疑問が列挙したが、僕は謎を解くことよりも睡眠を優先させた。
部屋に戻り、床につく。
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