異世界喰らいの魔女エカチェリーナ

くもかげ

第1話 腹が減っては生きてはいけぬってね

 ここがどこかって? あたしの書斎よ。円形の部屋の壁全部に本を敷きつめたこの秘密基地スタイル、完璧でしょ。


 この本全部に、色んなところであたしが集めた異世界ものがたりがおさめてある。異世界ものがたりっていうのは、知能の高い生物が創造したり、記憶したりしてるもののこと。


「あー! お腹空いた!」


 地球のデパートで買ったこのソファ、中々快適。でも、今はそれどころじゃない。空腹よ。集めた異世界ものがたりが底をついたから、あたしが孤独に生き続けるためにもまた集めに行かなきゃならないのよ。


「めんどくさ……でも集めに行かないとあたし死ぬし」


 この宇宙のどこかにある、あたしがいる星。この部屋の外は荒野だらけ。あたし以外生き物はいない。だから異世界ものがたりをつくったり記憶したりする生物もいない。


 あたし自身の記憶は食べることが出来ないし、美味しい異世界ものがたりをつくるのは苦手。


「行くしかないわね……死ぬのはやだし」


 一番手っ取り早く異世界ものがたりを集めることができるのは、地球ね。あそこはものがたりが豊富なのよ。面白い記憶を持つ生物がいっぱいいるし、異世界ものがたりをつくる人間たちも多い。あたしの行きつけの星。


 あたしは部屋の扉を開けて外に出た。青空にこの星でただひとつの部屋に続く白い扉だけが取り残される。見飽きた荒野の乾いた大地に放置していた円盤型の小さな宇宙船に、あたしはさっさと乗り込んだ。

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