君が笑えば首も曲がる

つくのひの

第1話


 外が明るくなっていく。

 朝日の光は私の気持ちをポジティブにしてくれる。

 

「今日も一日がんばったね」

 と、キッチンのモトヤマさんが言った。

「まだ終わってないですけど」

 と、ホールセンターにいた私は応えた。

「まあね。でも、今日はとくにイベントもないし、普通の平日だから、もうそんなに来ないだろうね」


 地方のファミレスの深夜にお客さんが来ることはほとんどない。にもかかわらず、なぜか二十四時間営業をしている。チェーン店で全店舗が二十四時間営業をしているからだろう。このお店にお客さんが来ないからといって、ここだけ二十四時間営業をしないというわけにはいかないようだ。深夜の時間帯に限って言えば、間違いなく赤字だと思う。


「むしろ今からのほうが忙しいと思うんですけど」

 と、私は言った。

 深夜には来なくても、朝はお客さんが来る。出勤前にファミレスで朝ごはんを食べていく人がこんなにも多いものかと、二十四時間営業のファミレスでバイトをするようになって、初めて知った。


 夜勤の人が辞めたことで、私が深夜のシフトに入っている。正直、夜は寝ていたい。できれば深夜のシフトには入りたくないけれど、でも、深夜は時給が高い。それに、深夜にする仕事といえば、ほぼ掃除をするだけなので、仕事としても楽だ。眠たいという最大の難関さえクリアできれば、楽をして高い給料をもらえるんだから、これほどおいしい話はない。


 この時間のシフトを断らない理由がもう一つある。というか、それが最大の理由なんだけど。

「まあ、朝はそれなりにね。でもまあ、今日もいつもどおりだろう」

 と、モトヤマさんは言った。

 そう、頼りがいのある先輩であり、私の憧れの人、モトヤマさんがいるから。これが、深夜のシフトに入る最大の理由だ。


「おはようございます」「おはようございます」

 ホールのタナカさんが店内に入ってくる。

 タナカさんの顔を見ると、これで帰れる、と思ってほっとする。

 少ししてキッチンのハヤシさんも来た。

 そして、今日の夜勤が終わった。

 モトヤマさんの言ったとおり、いつもどおりの朝だった。それなりにお客さんは来たけれど、特別忙しくなることはなかった。

 それにしても、〇時から朝の九時までは、やはり長い。

 

「お疲れさまです」「お疲れさまです」

 モトヤマさんと一緒に休憩室に戻る。着替えて、少し話をしてから、一緒にお店を出た。


 自転車で歩道を走りながら、モトヤマさんとの会話を振り返る。話の内容だけでなく、モトヤマさんの表情、しぐさ、声、などなどを思い出していると、なんだかにやけてきた。

 恋人はいないらしい、というのがタナカさん、ハヤシさんをはじめとする女性陣の意見だけど、本当のところはわからない。モトヤマさんの口からはそういう話を聞いたことがない。いつか直接、本人に訊いてみたい。


 アパートの近くにあるコンビニに寄る。パンを買って帰った。

 アパートの自転車置き場で、猫が寝ていた。バイクのサドルの上で、朝の光を浴びている。気持ちよさそうだ。暑くないのだろうか。スマホで写真を撮った。モトヤマさんに見せよう。モトヤマさんの反応を想像して、にやにやしてしまった。


 三階の自分の部屋まで階段を登る。汗が吹き出してきた。

 部屋に入って、エアコンをつけた。


 インスタントのコーヒーをいれる。シュガースティックを二本と、コーヒーフレッシュを一つ、コーヒーに入れてかき混ぜる。氷もひとつかみ入れた。

 コンビニのパンをかじりながらスマホでネットを見た。

 パンを食べ終わってからもだらだらとスマホを触っていたらお昼になった。

 時報のサイレンを聞いて、寝た。


 夕方に目が覚めた。

 もっと寝ていたいのに。

 お昼に寝ることにはまだ慣れない。ひどいときには一時間くらいで目が覚める。

 深夜だけのシフトにしてもらえば、また違ってくるのかもしれない。夕方のシフトがなくなって、夜勤のシフトが増えれば、そのぶんモトヤマさんとも一緒になれる時間が増えるわけだから、それはそれでいいな。


 シャワーを浴びた。

 買い置きをしている袋ラーメンをつくって、テレビを見ながら食べた。

 音楽を聴きながらスマホでしばしネットを見て、身支度をして、部屋を出た。


 今日も深夜のシフト。今日はモトヤマさんと一緒ではないので、テンションはやや低い。

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