2:ゲームと現実 その2
「そういや、SLOってどれくらいこの世界に忠実なんです?」
「魔術以外はフィクションと思ってください」
「ええっ!? 使えないじゃん!?」
「こういう事態は想定していませんでしたから。それに情報を得るための使節も自由に動けませんでしたので、正確な情報はほとんどありませんでした」
「じゃあ、地図とか魔術は?」
「書物を裏ルートから手配しました。特に魔術については交渉の鍵でしたので、古文書の類をかき集めました」
「魔術のハウトゥ本みたいなのあったの?」
「かなり古い書物で、解読にも苦労しましたが、その成果がSLOに生かされました」
「古いって、どれくらい?」
「100年以上はたっているでしょうね」
「あ、だからか」
真二郎はさっきのテントで、この世界の老人たちが『古からの正統な術式』と驚いていたのを思い出した。つまり元ネタが古かったために格式が上がったわけだ。ケガの功名とはこのことか。
「ってことは、モンスターとかは?」
「地元の住人からの情報、書物に出てきた物は1割くらいですね。他はよくあるゲームからの流用です」
「使い回しか……。どうりでデジャヴ満載だったわけだ。じゃあ、スライムは?」
「いません、多分」
「えーっ!? 見たかったのにな~。いや待て。いないとは限らないのか」
「まあ、そうですね」
「よし。希望がわいてきた。とりあえず、最初の目標はスライムに会うにしよう」
「ちいさい目標ですね。今はそっちの目標より、生き延びることを優先させませんか? とりあえず、私の手持ちはライターと紙だけです。火をおこすくらいは出来ますね」
「いや、多分魔術で火はおこせるから」
「あ……。そうでした」
そうつぶやくと、美姫は大きなため息をついて肩を落とした。
「はあああ~……」
「なんですか、急に?」
「本当に魔術が使えるんだもんね……」
「そうみたいですね~」
「先祖に魔術士がいたとかないんですか? 心当たりは?」
「全然ないですが」
「言い伝えとか?」
「聞いたこともない」
「なんか、これまでしてきたことが一蹴された気分」
「そんなことないでしょ。SLO作ったおかげで僕が見つかったわけだし」
「魔術使えるならさっさと名乗り出て欲しかったわ」
「無茶言わないでくださいよ、本人も知らなかったのに」
「愚痴くらい言わせて。あれ作るのにどれだけ苦労したか。それなのにネットじゃクソゲーだ運営クソだって言われっぱなしなんだから」
「ごめん……」
「まあ、自分でやっててもそう思ったし。宣伝ばっかりに予算つけられて、開発チーム全然足りないし、スケジュールはケツが決まってるし、もっと時間がたっぷりあったらDQとかFFとかみたいな凄いの作れたのになぁ……」
「昔からゲーム、やってたんですか?」
「やってたけど? でなきゃ担当しろなんて言われないじゃない」
「あ、なるほど」
しごくもっともな話に真二郎は納得した。そして、急に同胞意識を抱いてしまうのはオタクの悪いところだ。どんなゲームをやってるのか訊いてみたくてうずうずしてしまう。
「RPGがメインよ」
「へ?」
「訊きたかったんでしょ?」
美姫は先回りして答えると、幾つか有名シリーズのタイトルを上げた。それとちょっとマイナーなタイトルも。
「それ、僕も好きだったな。空飛ぶ船に乗って戦うの新鮮だったし、ヒロインふたりも可愛かったし」
「どっちが好み?」
「そりゃ幼馴染みの方」
「え? そっち? 気が強くて口も悪いのに?」
美姫は意外そうな顔をして僕を見る。
「いや、そこがいいんじゃないですか」
「ふうん。意外」
「なんです? オタクはみんな清楚なお姫様が好きだとか思ってた?」
「そうじゃなくて、だったら最初から地でもよかったのかなって――」
「え? なんか言った?」
真二郎が訊くと、不意に美姫の笑みが消えた。
「あ、いや、気にしないで」
悪のりして失敗したと思った真二郎が謝ったが、美姫は別のことに気を取られていた。
「街道に出たみたい」
美姫の言葉にホッとすると同時に、真二郎は緊張する。さっきの魔術の試験の時に会った老人たちを除けば、初めて異世界人に会う可能性がある。なんといっても真二郎たちの事情を知らない相手だ。
が、不安をよそに延々と広がる平原に伸びる茶色の道には人影どころか動く物の姿すらなかった。
「まあ、国道みたいに車がビュンビュン走ってるわけないよなぁ」
「そうね。とはいえ、ここまでとは思ってなかった」
しかたなく、真二郎は地図を思い出して町に向かう方向へ一歩踏み出す。
「そっちじゃないよ?」
「え!?」
「ウソ。今度は正しかったね」
美姫に方向音痴をおちょくられて顔をしかめたまま、真二郎は街道を歩き始めた。
「街道って言っても石畳で舗装されてるわけじゃないんだなぁ」
「ローマじゃないんだから。あったとしても町の周囲だけじゃない?」
「まさか魔術で空を飛ぶから地面は使わないってわけじゃないよなぁ」
真二郎はつぶやいて空を見上げる。
澄み切った青空は元の世界よりも青が強い気がした。排ガスも工場もないせいで空気が綺麗だからだろうか。
「なんか、こうやってるとSLOの続きしてる見たいだなぁ」
「そうかも。でも、私は今の方がいいかな……」
「え?」
真二郎が思わず聞き返した時、これまでは聞こえなかった音が割り込んできた。後方からだ。
振り返ると、街道を近づいてくる姿が見えた。
「馬車……みたいだな」
その時、美姫が何かを思い出したように真二郎に向き直った。必死の形相で真二郎に迫る。
「マオくん、お願い!」
「な、なに?」
「私を……私をあなたの奴隷にして!」
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