黄昏に触れる指

さくらおか

1.

 2人の生徒が死んだ。

 1人は理科の実験室で、自ら命を落とした。

 1人は行方不明となった後に、学校内において遺体で発見された。


 また、別の1人の生徒が意識不明の重体に陥った。その後、病院で一命をとりとめた。

 だがその生徒は、それから一生、暗闇の世界を彷徨い続けることになる。目の光を失ったのだ。

 失明しただけではない。髪の毛がほぼ全て抜け落ちた。眉毛も抜け落ち、以前の3分の1程度の毛しか残されていない。

 さらに四肢の知覚低下と麻痺も生じ、歩行障害が残った。皮膚は灰色っぽく変色し、ウロコ状になっていた。

 食欲低下も見られ、筋肉質であった生徒の体は、大幅な体重減少と共に、ガリガリに痩せ細った。


 ――安心。


 平和な日々。蜜月関係。

 人の死により、もたらされる幸福。


 その幸福は、あまりにも甘美で。

 彼は、気付くことができなかった。


 刹那的な生き方が、長期的な視点を曇らせてしまったのだ。


 ……いや、そのような素朴な言葉で言い表せることだろうか。


 人生は、思いもよらないことが起こる。綿密な論理に基づいて行動しようとしても、想像もつかない出来事が計画を破綻させる。人間の論理的思考の限界である。


 そう、彼は論理の限界を知ったのだ。

 論理で未来を予測するのは限界があるということを。

 そして――論理では処理しきれない、人間の感情が存在するということを。

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