幻想に導かれて

春嵐

01 起きて.

 くそっ。


 まただ。


「おい。ペンを貸してくれ」


「居眠りして起きて一言目が、ペン貸してですか。おはようございますは?」


「頼む。はやく」


「はい。どうぞ」


 最後に少しだけ残っている景色を、線だけでなんとかノートに。


 残せたかどうかも、分からない。


「どう。書けた?」


「分からない」


 分からない。本当に。会っているのかどうか。これが現実に存在するのかどうかすら、分からない。


「だめだな、俺は」


 見えはじめたのは、一ヶ月前から。


「そんなことないよ。がんばって夢の中の彼女探しなよ」


「心が折れそうだよ、正直」


 先生から当てられたので、答えを言って、解説もする。


「頭はいいのにね。なんでそんな不思議な夢を見るのかね」


「頭がいいからだろ」


「あっそ」


 昔から、無駄に頭がよかった。ただ、派手に頭のよさを誇示して生きていこうとも思わなかったので、学校は家に近いところを選んだ。


 そして、一ヶ月前から。不思議な夢を見るようになっている。


 決まって見えるのは、緑に溢れた景色と、女性。


 しかし、それ以上を記憶することが、できなかった。起きた瞬間に、頭から抜け落ちていく。


 固執した。記憶から抜け落ちるというのが、まず今までありえない。とにかく、夢で見ているものが、現実であるという証明から。


「あら。また寝るの?」


「俺は何度だって寝る。あきらめない」

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