第100話:白亜城の思い出⑥


 グローアライヒは建国されてから三百年弱。王朝の交代なんかを挟んで、すでに千年近い歴史があるランヴィエルとかに比べると、かなり若い国だ。今ここを治めている王様の一族は、元々大陸の北の方に住んでいたんだけど、そこの支配権をめぐっていろいろあった末に落ち延びてきたんだとか。

 「北方は気候が厳しくて、農作物が育ちにくい。そうなると海産物とか、山から採れる鉱物なんかの加工が主だった産業になる。

 現王室が元々住んでいた場所では、質のいい鉱石がたくさん採れたらしい。そのおかげでひと財産を築くことが出来たから、住処を追われても別のところで再起を図れた。その感謝を込めて、自分たちの姓を宝石の名前に変えたんだって」

 北の大地では晴れの日が少ないから、太陽を思わせる黄や金色の石が人気だった。その中でもとりわけ美しい『ヘリオドール』を王家が名乗って、付き従ってきた臣下もそれぞれが守護石を定めて家の姓名にした。そんないきさつから、今でも鉱石に関して特別な思い入れがあるんだそうだ。

 「僕の家なんかは逆に、こっちからランヴィエルへ移籍して名を上げた家系だ。あっちは『一度枯れても蘇る』ってことで植物、特に花の咲く草木が好まれる。だからその時、読み方だけこちら風にして『シュトルムフートトリカブト』って苗字に変えたんだって」

 「……あのー、質問。なんでよりにもよってその花なの? 思いっきり毒草じゃん」

 「あれ、知らない? 花の形が兜に似てるから、『騎士道』とか『栄光』って花言葉があるんだよ。毒花として有名だけど、強力な薬草でもあるしね。敵にとっては死をもたらす刃、王家にとっては有用な人材たれ、ってことで」

 「「「おお~」」」

 フィアメッタの素朴な質問にすぐさま応えてくれるりっくんだ。すらすら説明が出てくるあたり、小さい頃から何度も聞かされた由来なんだろうな。

 「で、りっくん。肝心の離宮のことなんだけど」

 「そうそう、その話をしてたんだった。――いま花言葉って言ったけど、実は宝石にもそれぞれ意味があるんだ」

 石言葉といって、贈り物にするときにメッセージとして込めることもある。例えば王家の石であるヘリオドールは『希望・活気・高尚な精神』、公爵さんちのベルンシュタインは琥珀のことで『長寿・優しさ・家族の繁栄』など。そして意外なことに、わたしたちが普段宝石と思っていないものにも意味が与えられていたりする。

 「ランヴィエルもよく採れるけど、こっちの国のは大陸でも質の良さで有名なんだよ。さっきのエントランスとか、あちこちにある像とかにも使ってあっただろう?」

 「あー!! もしかして大理石!? リバーストーンっていうよね!」

 「……そういやうちでも、ブレスレットとかに使うことがあるっけ。護符扱いで」

 「そーいうこと。石の意味としては『健康・安定と繁栄・心痛緩和』らしいし、別荘にはちょうどいいんじゃないかな」

 なるほど。つまりは地産地消にプラスして、王族の人たちが験担ぎをしているってわけか。確かに王様って真面目にやろうとするとものすごく忙しいだろうし、その分だけストレスもたまりそうだし、休暇の時に過ごす場所にはピッタリだ。


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