優しい死神
@medakanoyu0328
第1話
episode.1
俺は小さい頃から無口で、あまり感情を表に出さない子供だった。
そのせいでよく周りからからからかわれたり、いじめられたりしていた。
そして高校生。イジメはいまだに続いている。
「カイトさぁ…少しは抵抗したら?」
「やめろって、どうせ何もできないんだからさ」
「お前チビの時から何も変わってねーじゃん」
苦笑しながら俺を人気のない選択教室に呼び出した3人の男子生徒が俺を煽る。
しかもそのうち1人は小さい頃は仲が良かった友達だった。中学生の頃からだんだん疎遠になっていき、今に至る。
ちなみにこれはいつものことだ。何か用があるときは必ず俺をここに金を渡せだの呼んだだけだなど下らないことで呼び出す。
最初の方は俺も抵抗したが何を言っても止める気配がないので途中で諦めた。しかも若干の慣れまで混じってきた。
今では彼らのされるがままとなっている。
「で…今日はなんだ?金は持ってきてないんだけど…」
「今回は金じゃねーし。生徒手帳貸せ」
「……なんで?」
「いいから寄越せ!」
俺の胸ポケットから生徒手帳を3人のうちの1人が無理やり奪い取る。
「この写真いつもこの部屋から出るときに見てたよな?」
「それだけはダメだ!」
「おっと!暴れんじゃねーよ」
生徒手帳を取り返そうとした俺をいじめっ子の1人が腕を掴み、羽交い締めにする。
それは1枚の写真だった。唯一兄と2人で撮った写真。兄はいつも明るくて友達も多くて成績もよく、先生からも期待されていた。
だが、その兄はもうこの世にはいない。
先週病気で亡くなった。
私の最後の生きる希望だった兄。それを無くしてしまった俺は毎日生きる意味を忘れかけさえしていた。
「……それは大事な写真なんだ。返せ!」
俺は写真を持ついじめっ子の手にある写真を奪い取ろうとするが拘束されているため動くことができない。
「毎回見てるとさぁ…癪に触るんだよ」
そう言って彼は写真をグシャリと握り潰して床に落とした。
心臓の鼓動が頭の中で鳴り響く。
「どうしてそんなことをするのか」そんな言葉すら出てこなかった。
兄さんが亡くなってからの唯一の希望が潰え、今まで我慢してきた何かがぷつんとちぎれた音がした。
その瞬間。俺は拘束を力尽くで振り解き写真を彼から強奪して駆け出していた。
今にも壊れそうな自分を「大丈夫だ」と必死に宥めながら走り続ける。そのまま心臓が破れそうになるぐらい全力で階段を登り切り、屋上の扉を開け放つ。
「はぁ…はぁ……どうして…どうしていつも……クソっ!クソっ!クソ……何にも悪いことなんてしてないのに…どうして俺だけ……なんでなんだよ!なんで…」
溜め込んでいたものを全て吐き出す。この行為になんの価値もないことはわかっている。だが、ぜずにはいられなかった。17年間楽しい事なんて殆どなくて何度も死のうとした。
だけど、兄さんが居たから自殺はしなかった。兄さんは俺を必要としてくれた。一緒に遊んだり、ご飯を食べに行ったり。楽しかった。
「でも…もう…無理だよ……もう生きるのが辛いんだ!こんな人生なかった方がよかった!こんな人生要らない!死にたい!この世から……消えたい…消えてなくなりたい……」
床を何度も何度も殴りつけ、叫ぶ。今までの人生で背負った重りを全部全部捨てて楽になりたかった。
息継ぎもせずに叫んだので息が苦しくなり、ゼエゼエと洗い呼吸をしながらうずくまる。
「その願い、私が叶えて差し上げましょうか?」
「えっ?うわっ!?だ…誰………?」
「ふふふっ。こんにちは人間くん。私は死神です。貴方のことを助けに来ました」
これが俺と死神さんとの初めての出会いだった。
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