モフリストはケモミミっ娘ハーレムの夢を見る
鹿伏 兎
第1話 プロローグ
静謐な空気の漂う真っ白な空間。
神が数多の転生者を送り出してきた神聖なる場所。
そんな場所で今――女神は頭を抱えていた。
『……すみません。もう一度言ってもらってもいいですか?』
女神の問いに男は答える。
「ケモミミっ娘にモテモテになる能力をください!」
男の目に迷いは微塵も存在しなかった。
『あの……これからあなたは今までの常識の通じない場所に転生することになります。なのにそんな願いで本当にいいんですか? もっとこう剣の才能が欲しいとか魔法の才能が欲しいとか最強の武器が欲しいとか』
「ケモミミっ娘にモテモテになる能力をください!!」
『いやでもこれから生活していくことを考えたら――』
「ケモミミっ娘にモテモテになる能力をください!!!」
『被せ気味に言いましたね……』
女神は半ば呆れるように言った。
「昔から、もし異世界転生するようなことがあったら、ケモミミっ娘ハーレムを作ろうと決めてたんです! どうかお願いします!」
そう言って九十度のお辞儀を決めると右手を差し出す。
あたかも第一印象から決めていたかのように。
『なんでそんなありえないことを決意してるんですか……。いえまぁ実際転生することになったんですけどね。わかりました。その願いを叶えましょう』
ついに女神が折れる。
諦めたといってもいいかもしれない。
『それでその……ケモミミッコ?というのは獣の耳を持つ存在ということであっていますか?』
「そのとおりです。例えばイヌミミ。ちょっと肉厚でぴんと立ったものもよし、ぺたりと垂れ下がった耳もまたよし。薄くてさらさらしたネコミミはビロードのような手触りがたまりませんね。いずれトラやライオンのものも是非さわってみたいです。定番ですが長くてピクピク動くウサミミも押さえておかないといけませんね。おっと、キツネミミは当然はずせません。もちろん狐娘ならばもふもふ尻尾のほうが重要度は高いかもしれませんね。ちょっとマイナーになりますが長めのウマミミ、ロバミミ。前世で触りたかったのですが、噛まれそうになったので諦めました。小動物ならリスやネズミの慎ましい耳もまた味わいがあってよいものです。是非ピロピロしたいですね。あとは――」
女神の問いに男はすらすらと淀みなく答えていく。
女神は質問したことを後悔した。
『わかりました。もう結構です』
「では!?」
『そうですね……。それでは獣の因子を持つ存在にのみ効果を発揮するフェロモンというのはどうでしょう?』
「おぉ! 素晴らしいです女神様! 是非それでお願いします!」
『ただ、フェロモンとは体質です。自由にオンオフするようなわけにはいきませんよ? 体臭を出すなといわれてもどうにもならないでしょう?』
「うーん、そうですね。問題ありませんね!」
男は考える素振りをみせた。
だが本当に素振りだけだった。
ノータイムで断言した男に女神はため息しか出なかった。
『しかしそれだけで送り出しては、この先生きていけるか怪しいにもほどがあるでしょう。特別にもうひとつスキルを差し上げます』
「おぉ、さすが女神様太っ腹ですね!」
『下手な世辞はいりません。……世辞ですよね? というか馴れ馴れしいです』
女神はもうどうにでもなーれという気分でいっぱいだった。
『で、どのようなスキルをお望みですか?』
「では、どんな
『ふむふむ、なるほど……』
男はなぜか
提案された能力に、女神はしばし考える。
『一発昇天ですか。人の手に余る凶悪な能力といえますが、獣相手限定ということならばギリギリ許容範囲でしょうか』
「許可していただけますか?」
『わかりました。ではその能力で。しかしこちらは常時発動というのは危険すぎますね。技の名前を決めて、使用する意思を込めてその名を口にしたときだけ発動するようにしましょうか』
「む。おっしゃるとおり、たしかに街中で見知らぬ相手に不用意に発動したらエロテロリストと変わりませんね」
『でしょう。それこそテロリ……いま何か噛みました? うーん、まぁいいでしょう。では技の名前を決めてください』
「では――『ゴールドフィンガー』でお願いします!」
『ゴールドフィンガー……黄金の指ですか。なにか謂れがあったり?』
「いえ、単にノリで」
『……』
女神は軽くイラッとした。
だが話が進まないので飲み込むことにした。
『さて、あなたのスキルはひとまずこれでいいでしょう。では後ろの二人の紹介をしましょうか』
「後ろ?」
男が振り向くと、そこには二人の美少女が立っていた。
一人はイヌミミともふもふ尻尾を持つ白髪ロングの女の子。茶色の瞳が誠実そうな印象を与えている。
もう一人はネコミミと黒い猫尻尾を持つ黒髪ショートの女の子。金の瞳が興味なさげに、でもちらちらとこちらを伺っている。
「女神様。こちらのレディ達をご紹介いただけますか?」
『なんで急にジェントルマン風なんですか……。彼女達はあなたが前世で飼っていたペットたちですよ』
「え?」
そこで白い髪の女の子が前に進み出た。
「はい、ご主人様! 私です。『ユキ』ですよ」
その背後にはたしかに見覚えのある白い尻尾が揺れていた。
どんなに疲れて帰った日にも毎日欠かさずブラッシングしたふさふさ尻尾だ。忘れようはずもなかった。
「ほう、ユキか! と、いうことはそっちのネコミミの子は……」
黒髪の女の子も一歩前に出る。
「そうよ。『ノワール』――」
「『ノワ子』か! 見違えるほど大きくなって!」
「アタシの名前は『ノワール』よ! 自分でつけた名前くらいちゃんと覚えなさいよ!!」
感動の対面の空気があっというまに霧散した。
「だいたいなんでお姉ちゃんが『ユキ』なのにアタシの名前はフランス語なのよ! もうちょっと統一感出しなさいよ!」
「いやぁたしか、お前を拾った頃はワインにはまっててなぁ。ほら、酒に慣れてくるとちょっとお洒落なもの飲みたくなるじゃん。で、黒いしノワールでいいかってね。えへ」
「いい大人が『えへ』とかいってんじゃないわよ! というか人の名前ノリで決めんな!」
「まぁまぁノワちゃん。ご主人様と再会できて嬉しいのはわかりますが女神様の前ですよ」
がーっと歯をむき出して吼えるノワ子と、それをやんわり諌めるユキ。
なんとなく前世の関係も見えてくるような光景だった。
「しかし二人とも綺麗になったなぁ。もしかしなくても二人ともいっしょに来てくれるのか?」
「もちろんです。ご主人様に育てていただいたご恩をお返しさせていただこうと、せっかく女神様にお願いしてヒトに転生していただけることになったんですから。どこまでもご一緒しますよ~」
「むぅ。なんか納得いかないけど仕方ないわね。アタシたちが守ってあげるわよ!」
男の問いに、ユキはにこやかに、ノワールは不機嫌そうな顔でそう答えた。
『さて、話はまとまったようですね。ではさっそくですが向かっていただきましょう。細かいことはお二人に説明済みですので、あちらに渡ってから教えてもらってくださいね』
パンパンと手を叩きながら、教師のように女神様が仕切る。
『それでは……山之辺太一さん。ユキちゃん。ノワールちゃん。よい異世界ライフを!』
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