第26話 アクエリアス支配者ボルックス攻略4

 ペテルとベガが、ボルックスに向かって走る。

 ボルックスが、カードを球を剣を、次々と投げてくる。


 カード!

 投げたカードが複数に見える幻影!


「ぬううん!」

 ベガは槍を前方で振り回し、幻影ともども叩き落した。

 ペテルはベガの後ろで、残りをよける。


 ボール!

 中身は毒の煙!

 叩き落したベガが毒の煙を食らう。


「ゲグド!」

 すかさずスピカが、解毒の呪文をベガにかける。

 ベガが立ち直った。

 

 剣が回転を増して突っ込んでくる!

 ただ事ならぬ殺意をまとった速度と回転数!

 ベガの槍の矛先が唸る。


「インパクトティップ!」


 ベガが必殺技で、応酬する。

 激しくぶつかり合う金属音。

 剣がはじかれ、床にクルクル回転して突き刺さった。


「やるな。だが、いつまでもつかな?」

 ボルックスが、次々と玉を、カードを、剣をジャグリングし空中から放つ。


「ヒートボール!」

 スピカが、杖を天に掲げると、杖を中心に円状に八つのファイアーボールが浮かび上がり、ボルックスに向けて飛ぶ。

 そして、ボルックスが放った武器を、的確に撃ち落としていった。


「むううん! むううううん!」

 ベガが槍を構え近づきつつ、ボルックスの攻撃を受けて後退する。

「フハハハハ!? どうした!?」

 絶え間なく、前方の敵にカードを、玉を、剣を投げつける。

 夢中で投げ続ける。


 カチャリ。


 腰のあたりで音がした。

「どうもこうもないよ、お疲れさん」


 見ると、ペテルが腰のあたりに抱き着いている。


「バカめ!」


 仮面の顔が、グニャリと笑ったように歪んだ。

「この俺を、一輪車から降ろせるとでも思ったか!?」

「いいや。そんなことは思ってないよ」

 ペテルが、パッとしがみついた姿勢から飛びのく。

 ボルックスの腰には、ペテルが持っていたベルトが装着されていた。


 ペテルが腰から、小さな機械を取り出す。


 ボルックスは腰のベルトを外そうとして、外し方が変わらずアタフタしている。

「クソッ! 外れん! どうなっているんだコレは!?」

 外そうとして外せないのに見切りをつけて、ペテルの方を向く。

 手に持った機械が自分の方に向けられていた。


「させるか!」

 なにか危険を察し。

 ボルックスの頭上に、剣が、カードが、玉が浮かび上がる。

 それらを、勇者に向かって投げつけようとしたとき。


「な、なんだ!?」

 ボルックスの体が、宙に浮いた。


 ジャグリングどころではない。

 慌てて、武器をペテルに向かって投げつけた。


 しかし投げた武器は、放物線を飛んで全て見当違いの方向へと飛んでいく。

 それらは、天井に吸い込まれるように突き刺さったり爆発したりした。


 ボルックスの体が、ゆっくりと宙に上がっていく。

 得体のしれない感覚にボルックスはたじろぐ。

「いったいこれは何なんだ!? これは、どういう魔法なのだ!?」


「これは『反重力発生装置』さ」


「は、反重力!?」

 聞きなれない言葉に空中で戸惑うボルックス。


「そのベルトについている機能だよ。このリモコンで、重力の強さを加減できる」

 ペテルが、リモコンを向けて操作する。


「クソッ! クソッ!」

 ボルックスが投擲を再開するが、すべて天井へと向かって投げてしまう。


「ああ、無理だね。いま君の周辺の重力は逆さ向きになっているんだ。しかも3.6倍の重力だから、よほど厳密に計算して投げないと、当たらないよ」

「うおっ! うおおおおおっ!?」

 ボルックスの体が、引きつけられる加速を増す。

 5Mはある、大広間の吹き抜けの天井にしたたかに打ち付けられた。


 ペテルがボルックスに向けて、リモコンを操作する。

 反重力操作を切った。

 まっすぐに落ちてくるボルックス。

「バカめ!」

 ボルックスが空中で臨戦体制をとる。

 カードや剣や玉を落下しながら、浮かび上がらせる。

 

 落下に合わせて、ボルックスがジャグリングしていた武器をペテルたちに放とうとした。

 着地の2Mほど前。

 急ブレーキをかけて空中で∪ターン。

 再び天井に向かってボルックスの体は上昇する。


 ぐおおおおおおおっ!

 具現化した武器を必死で空中から投げつける。

 しかし全て徒労に終わった。

 見当違いの。

 重力が反対側の天井へ、それらは着地する。

 しかし。

 しかし、もう一度俺を下へ向かわせたときが貴様らの最後だ!


 ボルックスは胸の前に手を構え。

 両の手に魔力を集中した。

 この両の手に現れたカードは、何者の影響をも受けない。

 このカードを勇者の頭蓋骨に叩き込んでくれるわ!


 ボルックスの身体が上昇する。

 その直線状に。

 天井に刺さった、ベガのハルバードがあった。

 

「んなっ!?」

 いつの間に放ったのか。

 ベガのハルバードが矛先を下に向けて、床から5Mほど先の天井に突き刺さっていた。

 ボルックスが気づいて身体をくねらせる。


「馬鹿なッ! そんな馬鹿なッ!」

 必死に体をくねらせ、避けようともがく。


 だが、避けようがなかった。

 さしもの4将校も、こんな天井に刺さった槍に誘導されるように。

 しかも逆向きに落下させられるハメになるとは、想定外だったようだ。


「くそおおおおっ! このワタシが、こんなあああああッ!!」


 ボルックスの胴体を、槍が胸から背中へとナナメに貫く。

 哀れな道化は、ベガの槍に体を貫通され、吊るされたような形で息絶えた。


 一拍置いて、天井から一輪車が降ってきた。

 大きな音を立てて、一輪車が半壊する。


 ガランガラン。

 壊れて倒れた一輪車は、まるでステージの終わりを象徴しているようだった。

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