宇宙探査に出てたら墜落して墜落した星がファンタジー世界でしかも勇者に仕立て上げられた話する?

ろむりっく

第1話 プロローグ

 ネオンが眩しい繁華街。

 その繁華街の中にひっそりとある、特になにも変哲もない小さなバー。


 店内の印象は静かでおしゃれで、初めての客は少し躊躇してしまうような。

 だけど、落ち着いた雰囲気で飲み直したい。

 そんなときにピッタリの店だった。


 店の外はすっかり、夜が更けている。

 客は少なかった。


 カウンター席には男女が二人。

 カップルではなさそうだ。


 女性は男の話を。

 隣り合った男性の話を。

 クスクスと笑いながら聞いている。



「お上手なのね。少佐さん?」

「中佐だよ」

 男性は、バッヂを見せて言った。


 最近昇進したばかりなんだ。

 そうなんだ。

 女性はチョットだけ感心しながら。

 グラスの中の飲み物を、ひとくちだけ口をつける。


 女性は、グラスから唇を離して。

 アナタとの話は、楽しいと思うのだけれど。

「それにしても、最近は面白いことが何もないわ」

 ふうと鼻から息を吐いて、なんとなくふさぎ込んだ。


 番組も何を見ても、イマイチなんとなく面白くもないし。

 どれも似たりよったりだし。

 仕事だって、なんだかつまんないし。

 お客にも適当に返して、愛想笑いを浮かべて。

 毎日繰り返しで、イヤになるわ。


 金髪の緩くカールした髪が少しだけ揺れた。

 店内に照らされた横顔が、カウンターに影を落とす。

 

 女性は、グラスを置いて。

 おもむろに、タバコに火を付ける。

 そうして紫煙を、もてあそびながら。


「男たちだって、つまんないヤツばかり。聞いてみれば結局は自慢話ばかりよ。なにか面白いことってないのかしらねぇ」


 視線は正面の、ボトルが並ぶ棚にまっすぐ向けられている。

 女性のその問は、「ねぇ、アナタはどうなの?」と、

 なんだか問いただしているようでもあった。


「へえ。それじゃあ。面白い話を聞かせてあげる。っていうのはどうかな?」

「面白い話?」

 女性の疑うような眼差し。

「ありきたりな話は、聞き飽きているわ」

 期待を込めずに、グラスを傾けて中の酒を喉に通す。

「大丈夫だ。君が聞いたことがないようなワクワクするような冒険の話さ。しかも僕が実際に体験した話でね。この体験はちょっとやそっとではできないと思うよ」

 ただ、チョットというか。

 男性は、グラスを傾け。

「この話は。けっこう、長い」


「ふうん」

 女性はそこまで聞いて、グラスを置いて顔を向けた。

 その瞳に、興味の光がわずかに灯っていた。


「じゃあこうしましょう」

 女性も同じように、グラスを傾け。

 中身は飲まずに、グラスの中の氷を回す。


「アナタの話が面白かったら、途中までその話をやめても、このバーにまた来て続きを聞くわ。つまらなかったら今夜はここでお別れ。アナタとワタシは、この一晩限り。それでいい?」

「了解だ」


 男性はニコリと笑って承諾した。


「それじゃあ……」

 男性は、椅子に座り直し。

 カウンターに頬杖をついて、こう聞いた。




「いいよ。宇宙探査に出てたら墜落して、墜落した星がファンタジー世界で、しかも勇者に仕立て上げられた話、する?」

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