4
二人してパフェを楽しみ(俺に至っては胸焼け寸前だが…)、カフェを出た俺達は、近くで行われる花火大会の会場に向かった。
…が、当然のことながら凄い混雑っぷりで…
特に、花火が間近で見られる河川敷なんかは、座る場所を見つけることすら困難な状況だ。
結局俺達は、メインと言われる場所から少し離れた場所に陣取ってはみたけど、そこだってすぐに人でごった返し出した。
「俺、ビールでも買って来るよ。飲むでしょ?」
雑踏に掻き消されてしまわないように、大田君の耳元に口を寄せて問いかける。
でも大田君からは何の反応もなく…、ただ周りを落ち着かない様子でキョロキョロと見回しては、俺の腕をキュッと掴んだ。
さっきからそうだ…
混雑する人並みを見ては、不安そうに落ち着かない様子を見せる大田君。
その唇が、「行かないで」って音もなく訴えている。
俺は一度は上げかけた腰を下ろすと、大田君の手をそっと握った。
「ビールは後にしようね?」
俺としては、今すぐにでもキンと冷えたビールで喉を潤したいところだったが、終始不安そうな大田君を一人にしてはおけなくて…
『ごめん…』
そう語りかける唇に、俺は笑顔を向けることで答えた。
そう…、今の俺にとっては、花火を見ながらビールを飲むことよりも、大田君とこうして肩を並べて、なんなら手を繋いで花火を見ることの方が、よっぽど幸せを感じ感じられるし、何より大切な時間だと感じられる。
とは言え、この暑さだ、水分補給は必要だろうと、鞄の中に入れてあったペットボトルを取り出し、大田君に差し出した。
「これで我慢ね?」
俺が 言うと、大田君はクスリと笑って、ペットボトルを傾けた。
ゴクリ…と喉を鳴らす度に上下する喉仏が、汗に濡れたせいかとてもセクシーで…
不覚にも胸を高鳴らせていると、突然爆音のような…ドンッと腹に響く音がして…
夜空に大輪の花が咲いた。
次々と上がる歓声…
俺はそれに紛れるようにして大田君の肩を抱き寄せると、ほんのりチョコレートの味が残る唇に、そっとキスをした。
多分…いや、確実に、俺の目には花火よりも大田君の方が綺麗に映っていたんだろうな…
唇を重ねては視線を合わせ、お互い照れたように笑い合っては、また唇を重ね…
満開の花が咲く夜空を見上げながら、小さなキスを何度も繰り返した。
勿論、繋いだ手はそのままに…
そうして全ての花火が打ち終わり、俺達は人並みに押されるようにして花火大会の会場を後にした。
どうも人混みが苦手なような大田君を不安にさせないように、なるべく人気のない道を、はぐれてしまわないように彼の手を引いて歩く。
擦れ違う人の目なんて、全く気にならなかった。
でも、
「もしかして、翔真…?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれた瞬間、俺の手は無意識に彼の手を離していた。
絶対に離さない、って…そう思ってたのに…
「どうして…ここ、に…?」
喉の奥が乾いて…声が掠れる。
「友達に誘われて…。翔こそどうして?」
「俺はその…」
聞かれて俺は返事に詰まる。
彼女と別れる前…まだ俺達の関係が円満であった頃、花火を一緒に見ようと約束していたからだ。
「まあ、いいわ…。私には関係のない事だもの…。それより…」
彼女の視線が、一瞬大田君に注がれた。
「彼は…その…、友達って言うか…」
「ふーん…、翔真にそんなお友達がいるなんて、初めて知ったわ…」
「ああ…、つい最近知り合ってね…」
まさか彼女にフラれた直後に出会った、なんて言えなかった。
ましてや恋人だなんて…
「そう…、その割には手なんか繋いじゃって、随分仲が良いのね?」
「そ、それは…」
見られてたんだ、って…
そう思ったら、続く言葉さえ見つからず、俺は窺うように俺と大田君とを交互に見る彼女の視線から、顔を背けることしか出来なかった。
「まあいいわ、あなたが誰とどうしようと、私には関係のないことですものね? でも、もし寂しくなった連絡して? 話し相手くらいになってあげるから」
そう言って白い歯を見せながら去って行く彼女の背中に、
ふざけるな、って…
馬鹿にすんな、って…
怒鳴りつけてやりたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます