代品
天然水Ⅱ世
第1話 彼女と私
彼女と初めて会話したのは彼女と席が隣になった翌日の授業であった。自らの意思など関係ない、教師に強制されたものである。あまり頭がよろしくないためにさっぱり理解できないまま英文を読み終わった私は、とっくの昔に読み終わり私を待っていた彼女に目を向けた。
教師から出された課題は二人で話し合いながら英文を読解するという片方の頭が足りてないと残念なことになる課題であった。無言でいればそれこそ己の存在意義がなくなってしまうだろうと危惧した私は彼女に声をかけようとした。ところが彼女の名前がわからない。一応みんな初日に自己紹介はしたのだが、私のニューロンデータブックには彼女の名前は一ミリも記載されていなかったのである。結局話し合いは彼女のほうから始められた。
「読めた?」
「英語が大事だということしかわかりませんでした」
人見知りと成果の無さによって生じた罪悪感で心が埋め尽くされた私は彼女に敬語で返した。完全に陰キャのそれである。けれども彼女は特に私に侮蔑の表情を向けることなく、内容を語りだした。
「英語は何億人もの人間に公用語として使われていて、第二外国語として習得して利用する人はもっと何億人もいる。イギリス、アイルランド、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどの国々が母国語にしてるしインドにはイギリス以上に英語を話す人がいる。あと日本では英語研究が盛ん。あとは――」
「読めすぎ……」
彼女は私と比べて恐ろしく頭がよかった。高校生でももっと残念な方々はたくさんいるであろう。英文に対する戦闘力がほぼ皆無である私には彼女の解説に耳を傾けるほかなかった。
結局彼女から解放されたのは教師がストップをかけた七分後のことであった。隣では彼女が満足気な表情を浮かべていた。彼女にとっては読解がうまくいったことがとても喜ばしいことのようである。疲労が表に現れているであろう私とは対照的であった。
授業が終わってすぐに私は彼女の名前をインプットすることを試みた。これから授業で必要になるだろうと考えたからである。本人に今更名前を聞くのは何となく失礼な気がしたものだから私は教卓にある座席表を探した。箱ティッシュや箱マスク、その他誰かが落としたのであろう消しゴムなどで若干散らかった教卓内部に探し物はあった。
「
「ん? 呼んだ?」
山本さんは私のすぐ後ろに立っていた。
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