死者が乗る電車
テン
第1話
最近病気が流行している。
肺に疾患がある僕は渋々高校に通っていたが、ある日家に帰ってきたら具合が悪くなり布団で横になったまま動けなくなってしまった。
若い者は感染しても重症化せず、今後の生活も少しの後遺症を残しながら、復帰できる人がほとんどで、クラスのみんなや学校は何も対策してくれなかったことを思い出し、まさか、かかってないよねと思っていた。
しかし現実は甘くはなく、母が帰ってきたときに、ご飯の時間になっても起きて来ないことから何かあったのだと察して、僕の部屋に入り急いで救急車を呼んで、あっという間に病院に運ばれていった。
意識がもうろうとしている中、呼吸ができず、世界が回って見えて、何となくもうだめなのかと諦めがちらついてきた。
死にたくないと年を取りたくないといつも考えていたけど、いざ死を目の前にして、無意識に受け入れる体制ができていた。
その不思議な感覚に、驚愕を覚えながら、気が付いたら駅に立っていて、どこか懐かしい感じがすると思ったら、引っ越す前によく使っていた常盤金城駅改札口の前だった。
僕は懐かしい駅に、何故ここに自分がいるのだろうかと疑問を浮かべながらとりあえず改札口を通り、どうも現実味がある夢だなと思いながら、階段を下りてプラットホームに向かった。
「あーー懐かしいな、都会に行くのによく使ってたな」
この駅から直通で市の一番栄えている都市に行けるのでそこからまた乗り換えて、母である洋子と一緒に東京に出たもので、色々なところに連れて行ってくれた。
だけど、僕に父がいない分たくさんの愛情をくれていただけなのだと思う。
他の子供たちには父親がいて何故僕にはいないのだろうか、といつもそれと似たことを口にしていた。
今思えば寂しかっただけなのだろうと思うけど、その気持ちはずっと癒えないでいる。
「あんたも来てしまったのかい」
「立川・・・・・・・お前も死んじまったのかよ」
プラットホームの右奥に中学の時にお世話になった岡田加奈子先生とよく僕のことを殴ったり、いじめたりしてきた、君津拓郎がありえない顔をして立っていた。
君津の言葉に引っかかりを覚えながらも2人のところに走っていった。
「久しぶりです、君津も先生といるなんて珍しいね」
「なんだよ、お前ここがどこか本当にわかっているのか」
君津はため息をつきながら、高校に進学したはずなのにポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつけ吸い始めた。
性格に似合わず、甘い匂いが漂い始めた。
ふと後悔の色を出しながら、語り始めた。
どうやら、高校に入り友達と思える仲間ができたらしいが、ある日、ケンカが強いと噂されるようになっていた君津に学校一の不良と評される男が後ろから殴りかかってきたらしい。
君津はとっさに反撃したときに、たまたま頭を殴ってしまい、その後相手は後遺症が残ってしまったことで裁判になるが友達だと思っていた仲間に裏切られ、多額の借金を親に背負わせてしまったらしい。
裏で、裁判ごとになったら勝てるように口裏合わせに金を君津の周りにいる奴らに配っていたようだ、
自分は悪くないことを知っていても現実には親に借金を背負わせてしまったことには変わりなく、精神的に病んでいき、首つり自殺をしてしまった。
「俺は親不孝者だったよ、お前みたいに素直に生きていればこんなことにはならなかったな」
どこか寂し気に、煙草を吸いながら空を見上げる。
自分の生き方に後悔していることがひしひしと伝わってきた。
「根は同じものをあんたたちは、持っているんだけどね、ちなみに私は胃がんで死んだんだよ」
にっこりと岡田先生は笑顔を浮かべながら、何も後悔をしている様子なんてなさそうで、僕はほっとした。
こちらの様子を見ていた君津は「何ほっとしてんだよ」と小突いてきた。
なんだかんだで、いい雰囲気になってきたところで「神島はなんでここに来ちまったんだよ」と煙草を吸いきり、ごみ箱から缶を取り出してそこに捨て、また新しいのをライターで火をつけて口にくわえた。
僕はこの場が何となく死者が集まるのだと判断して「最近他の国から流行した病気に感染して」と伝えるとちょうど乗りなれた電車が停車した。
何か、いつも着ていた電車と雰囲気が違うなと考えていると「乗るぞ」と君津に手を引っ張られ乗車した。
中にはいろいろな人が乗っていて、行き先を見ると終点が死者の世界駅と書かれていてやはり、死を迎えた人たちが最後に乗る電車なのだと何となくわかった。
座席に座り岡田先生や君津と中学時代の話で盛り上がり時間を忘れて話し込んでいるといつの間にか終点である死者の世界駅に着いてしまっていた。
「なんかお前、触ったときに暖かいなと思ったけど、本当は生きてるんじゃねーか?」
「でもこの駅に着いてしまったってことは、もう死んでると思うよ」
「だよな、とりあえず降りようぜ、岡田も」
僕たち3人は終点で降りて、味気ない改札を出た。
外にはたくさんの人が一本道になっているところを真っすぐに向かって行く。
どこに向かっているのだろうかと、気になっていると、「信二ーーーー、お前はこっちだ!」と近くに不自然に止まっていたタクシーから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
ふと自分の記憶の中にある父の写真を思い出し、タクシーの運転席に座っている男が自分の父親ではないかと気が付いた。
急いで僕を呼んだタクシーに近寄ると、「隣の席に早く座ってくれ」と言われて中に引きずり込まれて、無理やり座らされた。
「拓郎みたいに親不孝者になるんじゃないよ!」
「お前は素直なままで、現実に戻って、俺たちの分まで生きてくれよ!」
2人は大声で僕にこれが会うのが最後のように、手を振りながら大声を出して別れを告げてきた。
僕が出ようとするとタクシーは勢いよく走り出し、電車で来た方向と真逆に走り出した。
父だと思われる男は「加奈子は元気か」と僕に聞いてきた。
元気であると伝えるとどこか嬉しそうな表情を浮かべながら片手をハンドルから放し、僕の頭をなでながら、「寂しい思いをさせてごめん」と謝ってきた。
父だと思われる男はやっぱり僕の父親で間違いはなく、なでてきた手が冷たくなっていた。
「信二は暖かいな、生きている証拠だから、俺が現実まで運んで行ってやるからな」
どうやら、君津が言っていたことは、僕はまだ死んでいないと示唆したものだったのかもしれない。
多分もうじきしたらお父さんと会えなくなると思った僕は母のことを思い浮かべた。
「母さんのどこが好きだったの」
僕はかなり緊張して、聞いてみるとすぐに「あの誰よりも純粋な笑顔かな・・・・・恥ずかしいな!」と照れ臭そうに口にした。
それからものすごい長いトンネルに入った。
「すぐに現実に着くから、・・・・・・・・俺と話したことを覚えておいてくれよ」
涙を流しながら、運転する父さんを眺めているうちに景色が変わった。
白を基調にした天井で風景が動いているようには見えない。
どうやら現実に戻ってこれたみたいだ。
自分の治療を担当してくれた医者たちは奇跡だと言っていたため、父さんが僕は死んでいたのだと確信できた。
その後、完治して家に帰ったときに母に「僕ね、父さんと会ったよ」と伝えると目を一瞬丸くして今まで見たことないぐらいきれいな笑顔を浮かべた。
死者が乗る電車 テン @tentenz
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