19話 エルミナと俺の秘密
それにしてもBランクか...。2ヶ月前はそんなこと考えられなかったな。あの時は毎日が絶望でしかなかった。底辺職業になって、アメリアに裏切られたと思い今後何をやればいいかわからなかった。でも底辺職業だと思ったら本当はすごい職業だったりしたし冒険者になる夢も結局諦められなかったけど、そのおかげでエルミナと会えた。
誰もいない生活は本当に辛い。でもエルミナがいるって思えるだけで暗い生活が一変した。最初こそエルミナのことを信用することができなかったけど、底辺職業だからって俺を見捨てないし見下さない。そんなエルミナと冒険をしてみたいと思った。例えエルミナがエルフの王女だろうとそれは変わらない。俺はこの人を守りたい。そう思えた。
最初はエルミナのコミュニケーション能力に戸惑っていた。だけどエルミナも人をちゃんと見て言っていることがすぐわかる。勇者に誘われていた時も流されずに自分の意志で言っていた。それはルビアの時だってそうだ。エルミナがルビアに軽率なことを言わなければルビアは冒険者にはなっていなかったかもしれない。最初こそ何を言っているんだと思ったけど今になればよかったと思う。その一言がなければルビアと一緒に冒険ができなかったかもしれないし、闘技大会にも出ていなかったかもしれない。
もし出ていなかったら迷宮ダンジョンに行かなかったと思う。そうするとノアと会うこともなかった。だからエルミナのあの一言があったからこそ今のパーティができている。4人で冒険を始めてからもそう。エルミナがの紹介があったから師匠と出会えた。
エルミナといるといろいろなことが体験できて楽しい。それもすべてがいい方向に進んでいる。
(本当にありがとう)
そして今は幼馴染のアメリアとも仲直りができて一緒のパーティにいる。こんなこと誰が想像できた? 俺なら無理だ。今以上の幸せはもう来ないかもしれない。でもこの状況を作ってくれたエルミナや他の仲間には感謝しかできない。
☆
みんなとギルドから出て歩いていると俺の隣にエルミナが来て話しかけてきた。
「ねえクリス...。前話したこと覚えてる?」
「え? あぁ」
前話したこと...。多分エルミナの兄に命を狙われているってことだろう...。
「こんな大事になったら多かれ少なかれ噂になるよね...」
「うん...。多分そうなるよな...」
「どうしよう...」
「...」
どうしようって言われてもな...。まだどんな対策をするか決めていない。いや決められない。今の状況でエミルークを出たらそれこそ大事になる。そしてそれは王宮に行っても同様だ。でも王宮に行くことを断ったら問題視される可能性もある。今の状況になってしまった以上少しは目立ってしまう。普通ならいい意味で目立つことはいいこと。でもエルミナの事情を知っている以上目立つ行動は避けたい。だけど大きなクエストをやると目立ってしまう。
冒険者として致命的だ...。じゃあエルフの国に行って解決するか? そんなこと今やったところで全滅することが目に見えている。俺たちは強くなった。強くはなったが一国の王族を相手にするほどつよくなったわけじゃない。
(どうしよう...)
「エルミナはどうしたい?」
「私は...私はクリスとかみんなともっといっぱい冒険したい。でも最悪な事態にはなってほしくない」
「それは俺もだよ。俺もエルミナたちといろいろな場所に行って冒険をしたい。だから今後のことを今からでもいいから考えていかないか?」
「うん...。でもこのことはみんなには言わないでね」
「なんで?」
「これは私の問題。このことを知られてしまえばルビアは絶対にパーティから公爵家に引き戻されちゃうと思う。それはアメリアやノアも同様。ノアは上級職業で貴族だしアメリアは世界から見てもめったにいない聖女。このことが知られちゃったら絶対に人族の王族から何かされちゃうと思う...」
そうだよな...。俺は表面だと底辺職業で弱いってレッテルを張られている。闘技大会でベスト8になったからって上級職業たちみたいに優遇されるわけじゃない。それにこのことを知ってしまったらみんな危険にさらしてしまう可能性がある。俺はいい。俺はエルミナと一緒のパーティになった時、この人のためなら命を張れるって覚悟を決めたから。でも他の人は違うかもしれない。だから...。
「そうだな。2人で話していこう」
「うん...。ごめんね」
「いいって。エルミナにいろいろと助けられているし仲間じゃん。頼れる時に頼らなくてどうするんだよ」
「うん」
エルミナと話し終わって宿に戻ると宿の店主からアーサーさんからの伝言を伝えられる。
「王宮騎士のアーサーって人から伝言だよ。明日の昼、宮殿に来てほしいだってさ。それにしてもあんたすごいんだね!」
「ありがとうございます」
「はいよ。頑張りな」
「はい」
今言われたことをパーティメンバーにも伝えた。
(それにしてもわかっていたけど宮殿か...)
大きい都市には王族の血縁者か公爵家が大まかに仕切っている。次向かう都市は人族の王族がいる。その血縁者がエミルークにいるってこと...。
(緊張するな...)
大々的な勲章や褒章はいらないんだよな...。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます