都市開発列車
しお部
第1話 四谷あたりと言う男
「はい、かなり飲んでいたので、はっきりとは覚えていません。新宿を過ぎ列車は東中野に着こうとしていました。なにぶん酔っていたので、はっきりとは・・・。男女のカップルが乗っていたことは覚えています。はっ? わたしの勤め先ですか。四谷あたりです」
『三鷹
「本部長、やはりあの男は四谷あたりとしか答えません」
「ごくろうだったな、
男は警察署を出るといつのまにか降り出した小雨を避けるように小走りに近くのバス停へと急いだ。深夜に近いこの時間、バス停に人影はなかった。
帰宅が遅くなる言い訳を色々と思案しながらも、やはり自分に「連続しおもっこ」の疑いが掛けられていることに心が揺れる。
男は腕時計をみ、自宅に掛けようとした電話をあの女の電話番号に切り替え、応答を待った。
「もしもし」
「あっ、俺だけど・・・」
「えっ、もしもし、もしもし?」
電波の状態が悪いのか、男の電話の声はうまく伝わらないようだった。女には聞こえていないようだ。それでも男は話しを続けた。
「いま警察に呼び出され、色々と聞かれたよ。『連続しおもっこ事件』についてだ」
「・・・」
相手の返答はない。男の声が知らずと大きくなる。
「警察に呼ばれたんだ! 疑われているの! お前のことは何も聞かれなかったよ! 俺もほとんど何も答えてない! まだ大丈夫だ!」
「・・・」
次第に大きくなる男の声は人影のない深夜近くの街に響き渡っていた。
「聞こえないか。仕方が無い。また後で」と男は電話を切った。
電話をポケットに入れ、また一人、バスが来るのを待った。
通りの向こうで街路樹に隠れる人影があった。三〇歳手前くらいの細身の女性の影だ。女は何かを心得たように
「そんなに大きな声なら、電話じゃなくても聞こえるわ」
近くの歩道橋の上には、もう一つ人影が立っていた。道路を挟み電話で話す二人の様子をしっかりと捉えていた。小太りの男の姿だ。二人の会話というか、男の一方的な大声を聞き終え歩き出す女の姿、バスを待つ男の様子をしばらく眺めていたが歩道橋を渡っていった。
歩道橋の下に停めてある車に乗り込むと、小太りの男はタバコに火をつけ深く吸った。車には「
(続く)
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