第9話

「あ、海君」

「ん?どうした葉山」


 帰るために下駄箱から靴を取り出そうとすると、今日は俺ではなく葉山が声を出した。


「手紙が入っています。……山田先輩から」

「だと思ったよ」

 今日も飽きずに手紙を書き、今日は葉山の方に絞ってきたか。

「何て書かれてる?」

「『これで呼び出すのは最後にする。図書室にきてくれ』だそうです」

「そうか。……俺も行こうか」

「いいえ、私一人で行きます」

「危険だと思うぞ?」

「だって危険な目にあっても、海君は私を守ってくれるんでしょう?」

「……分かったよ」


 信用されているのは素直に嬉しいが、大丈夫だろうか。

「葉山、俺のスマホ渡しておく。電話が来たら出てくれ」

「は、はい分かりました。何か意味が?」

「役に立つかは半々かな。まあ、あれば便利だから」

 葉山に電話を渡しておく。本当は使わないで

終われば良いのだが万が一に備えて、だな。





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(葉山 菫視点)




 今、私は指定通り図書室に向かっています。

 先ほど電話が澤井さんから電話が来たので、

海君に言われた通り出て、今は胸ポケットにしまっています。


 と、考え事をしていると図書室に着きました。慎重に扉を開け中を確認すると、山田先輩がいました。

「来てくれてありがとう」

「……いえ、早く用件を済ませてもらえますか?」

「ここは、もしかしたら人が来るかもしれないから移動しても良いかい?」

「……まあいいですけど」


 何故ここに呼んだのでしょう。最初から目的の場所に行けば良かったのに。

 着いたのは今は使われていない相談室。

 ドアには何故か紙が張られていて中が見えなくなっています。

「さ、入って」


 私が中に入ると直ぐに山田先輩はドアを閉めました。中には男子生徒が三人います。


「あの、人が居るんですけど」

「ああ、僕が呼んだんだよ。お前らやれ」

「えっ」

 山田先輩の合図で三人は私の腕を抑え、倒してきました。

「ど、どういうことですか!」

「あの手紙は葉山さんの彼氏とやらも見ると思って、人が来る可能性もある図書室を指定したのさ」

「や、やめてください!離して!」

「離すわけねぇだろう!美少女を好きに出来るんだからなぁ!」

「本当、山田には感謝しかねぇぜ!」

「おいおい僕の分も残しておけよ」


 恐怖、絶望が私の脳内を駆け巡っていきます。私が叫んでも誰も来る気配はありません。

 男子生徒達の気持ち悪い笑みが見えます。

 この笑みが嫌いなんです。自分の欲に忠実な、愚かな生き物です。あの時海君にも着いて来てもらえば良かったのでしょうか。


「……何やってんの?」

「ごめん葉山さん。遅れた」

 諦めかけた時、救いの声が聞こえました。

 声の聞こえた方を見ると走ってきたのか息が切れている澤井さんと怒りに染まった顔をした海君がいました。


「な、何でお前らが?!」

「なあ、陽一今日ぐらい良いよな?」

「殺さない程度にな。俺も止められるか

 分からないから」

「何ぶつぶつ喋ってんだ!」

 三人が一斉に海君にかかっていきました。

 海君が無事に済みますように、と、私は願うことしか出来ませんでした。




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「つ、強すぎる……!」

「おい山田!こんなの聞いてないぞ!」

「うひゃー相変わらず強すぎるなー海の奴」

 私の心配は当たらず、それどころかはね飛ばしてくれました。


 海君は、山田先輩を含めた四人を一瞬でやっつけてしまいました。

 一人は鳩尾に入って気絶しています。


「さ、澤井さん。あれは一体……」

「あー、葉山さんは知らないか。これも海が人と関わらなくなった一つの理由だな」

「え?」

「葉山さんはさ、何考えてるか分からないけど喧嘩が物凄く強い奴が近くにいたらどうする?」

「多分関わらないと思います」

「そう、それが普通の判断なんだよ。それが重なって、今の海という人間が出来たと俺は思ってる」

 澤井さんは中学から親交があると聞いています。


「大丈夫?」

 海君は優しく私に聞いてくれます。

「はい!助けてくれてありがとうございます!」

 私はあの日言うことが出来なかった感謝を

笑顔で伝えます。

 海君は知らないでしょうけどね。

 私は海君の手をかり起き上がり、部屋を出ていきます。


 後日あの男子生徒四人は退学になったと聞きました。

 あの後直ぐに海君が先生に伝え、現場に行くと顔が腫れている四人を見て先生は驚いていましたが、私達は普段通り学校に通えるようです。

 この事が起こり、海君が私へのスキンシップが多くなったことが嬉しいと感じたのは、ここだけの秘密にしようと私は思いました。

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