第218話 ゲスモブ、憤慨する

 まったく田沼のクソ野郎は、ロクなことをしやがらねぇ。

 ドロップ品にスキルオーブを加えたことで、ダンジョンに挑む者が一気に増えたのに、田沼のせいで冷や水を浴びせられた恰好だ。


 誕生日が早かったからか、田沼は十八歳になると同時に冒険者免許証を取得して、正規の手続きを踏んで光が丘のダンジョンに潜ったようだ。

 田沼は、以前にもダンジョンに入り込み、ゴブリンに襲われてクソを洩らしながら逃げ帰ってきた様子を動画配信者に撮られ、晒されている。


 スマホを炎上させてやった時にも洩らして、晒されて、俺だったら自殺してるレベルの恥を晒したのに、またダンジョンに挑もうなんて何を考えているのだろう。

 光が丘ダンジョンに潜った田沼は、何の成果も得られなかったどころか、またゴブリンに襲われて逃げ帰り、今度は全国中継のテレビで醜態を晒した。


 異世界召喚された俺たちの件とダンジョンの関係性を探る……みたいな番組だったので俺も見ていたのだが、粗末な一物を晒した上に洩らしやがった。

 あいつは、醜態を晒すことで快感を得るド変態なのか?


 あまりにも汚い絵面のせいで、あっという間にSNS上ではウンコマン祭りが始まり、そのせいで今度は無駄な正義を振りかざす連中が湧きやがった。

 冒険者免許を与える条件が緩すぎるとか、年齢制限を引き上げるべきとか、格闘の講習を受けさせてから潜らせるべきだとか、規制を声高に叫び始めた。


 下らない世論に押されて、政府は冒険者免許の取得条件を厳しくする方向で動き始めたし、学生の立ち入りを禁止してしまった。

 俺も夏休みには免許を取得して、皇竜に怒られず、世間から目立たない程度に稼ぐつもりでいたのに、計画が狂ってしまった。


 腹が立ったから、アイテムボックスの能力で夜中に学校のパソコンを使ってネットにアクセスし、田沼の個人情報をバラ撒いてやった。

 もう二度とウンコマンのレッテルを剥がせないように、徹底的にやってやった。


 まぁ、田沼が羞恥フェチのドMだった場合は逆効果だが、春休みが終わっても学校に出て来ていないところを見ると、一応精神的なダメージは負っているようだ。

 これでも、また調子に乗るようならば、何度でも晒してやる。


 春休みが終わり、俺達は進級して高校三年生になった。

 同時に、これまでオンラインだった授業は学校へ通って受けることになった。


 うちの高校は学年が変わるごとにクラス替えが行われるので、その時に合わせて召喚されなかった生徒と混ぜてしまおうという思惑のようだ。

 世間的には、異世界召喚に関する話題は下火になってきているが、ダンジョンが現れたり、田沼が悪目立ちしたりしたせいで、思い出してしまっている奴もいそうだ。


 高校としても、召喚された九人は同じクラスにして、普通に登校が難しくなった場合に備えて、保健室登校のように別教室で授業を受ける準備も整えているらしい。

 そして俺は、召喚される以前のようにオタボッチな高校生活に戻る予定だったのだが……。


「はい、善人、あ~ん……」

「いやいや、あ~んとか恥ずい!」

「黒木、あたしのウインナーもあげる……」

「黒井だからな、く・ろ・い……って、分かっててやってるだろう」


 清夏が卵焼きを差し出し、坂口がウインナーをグイグイと押し付けてくる。

 昼休みの教室で、こんなラブコメみたいな状況に置かれるなんて……そりゃあ何度も妄想したけれど、実際に味わってみるとキツい。


「てか、お前ら俺で遊ぶな! 特に坂口!」

「もぅ、真由美って呼んでって言ってるのに……」

「言われてねぇよ、一度たりとも言われてねぇからな」

「あははは……」


 あははは……じゃねぇよ、なんで清夏まで一緒になって笑ってんだよ。

 てか、クラス中の視線が痛いんだけど、俺はそんなキャラじゃねぇんだよ。


 登校するようになったら、あまり目立たないように清夏にも普通にしようと言っておいたのに、顔を合わせた途端がっつり腕を組んで押し付けてきやがった。

 学校で歩きづらくなってたらヤバいだろう、変態だと思われるだろう。


 ベタベタするのは恥ずい、普通にしようと言ったら、これが普通でしょなんて言って頬にキスまでしてきやがった。

 一年前の俺が見たら、間違いなく爆発しろと呪っていただろう。


 その点、井川と異世界の記憶を消してやった倉田、道上、斉木は絡んで来ないので助かっている。

 あと一人、一番要注意人物の那珂川も、俺に触れるなオーラを漂わせて、ガリ勉ボッチを貫いているから、こちらからも絡まないでいる。


 あれだけネットで誹謗中傷され、顔に傷が残っている以上は身許を隠すことすら難しい状態なのに、まるで何事も無かったかのように振舞っている精神力は純粋に凄いとは思う。

 さすがに、衝動的に人を殺しておいて、すぐさま冷静に自分が先に襲われたかのように工作する化け物だけのことはある。


「てか坂口、その髪は有りなんか?」


 坂口は髪をピンクに染めたまま登校してきている。

 こんな髪色をしていれば、嫌でも目立つし、何があったのかと勘ぐられてしまうだろう。


「えっ、先生の許可は貰ってるから大丈夫だよ」

「そうじゃねぇよ、悪目立ちするだろうって言ってんだよ」

「んー……別に髪を染めてなくても、私って美少女だから悪目立ちしちゃうし」

「はいはい、聞いた俺が馬鹿でした」

「もう、黒田、冷たい……私の初めてをあげてもいいのよ」

「はいはい、そーですか、そりゃあ光栄でございますね……って、黒井だからな、く・ろ・い!」

「あははは……」


 はぁ……俺の平穏な高校生活は、どこへ行ってしまったんだよ。

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