第137話 カースト女子、無駄に考える
※今回は宮間由紀目線の話になります。
桂木と王弟バルダザーレの会談が終わって、いよいよ私たちは邪竜の討伐に向けて動き始めるようだ。
拠点も別の場所へと移動となるようで、生活環境も良くなるらしい。
今の宿舎では、プライバシーなんて殆ど存在しておらず、元ヤンキーのグループなんてフリーセックス状態だ。
私は、梶原琴音と共謀する形で桂木を独占しているが、私達が妊娠するのを恐れているようで一線を越えることはない。
おかげで琴音は処女ビッチ状態だ。
女性二人に迫られ、特に今よりも深い関係を求めて、純潔を捧げたがる琴音の要求すら拒絶するのだから、桂木の意志の強さは並大抵ではない。
それでも桂木だって健康な男子だし、行き場を失った生理的欲望は、私が胸やお口で処理してあげている。
琴音も見よう見まねで奉仕しようとしているけど、残念ながら挟めていないし、テクでも私には敵わない。
ただ、攻められる時の初心な反応は、私がやろうとするとワザとらしくなりそうだ。
まぁ、その初々しさも近頃は薄れてきているから、この先はずっと私のターンだろう。
その時の状況で、一番の男を手に入れる。
一番の女には、一番の男が相応しい。
異世界に召喚された私達の中で、一番の男は誰かと問われれば、殆どの者が桂木と答えるだろう。
当然、私もそう答えるし、実際に行動を共にしている男子の中では、魔法の威力、周囲を統率する力、交渉力、どれをとっても桂木が一番だ。
だが、ここに来て意外な男の存在が明らかになった。
黒井……正直、覚えているのは苗字だけで下の名前すら憶えていないどころか、印象が無さすぎて顔も思い出せない。
日本に居た頃は、桂木と絡んでいたらしいが、その頃は二人とも眼中に無かったのだ。
たぶん、黒井本人と顔の似た人物を二人並べたら、誰が本人か判別する自信が無い。
それほど影の薄い男が、クラスメイトの男子の中で、誰よりも大きな仕事をしている……私には目もくれずに。
これは、どうなのだろう……私よりも、こっちの男どもに恐らく性的な虐待を受けた女の方が魅力があると思われているのだろうか。
「博愛主義者? それとも、ヤバい性癖の持ち主?」
黒井の思考を想像しようにも、印象が薄すぎて取っ掛かりすら見つけられない。
持っている魔法はアイテムボックス。
普通は何かを収納するだけの魔法に、黒井は自分自身を収納して動き回っているらしい。
ゲームや漫画、アニメなどには詳しくないので、黒井がアイテムボックスにどんな工夫を加えているのか想像もできない。
ただ、体を両断された桂木や、頭が潰れた田沼を助けたのは、アイテムボックスの魔法ではないはずだ。
方法は分からないが、邪竜討伐には欠くことの出来ない人材なのは間違いない。
それなのに、あの桂木でさえ引き留めるのに苦慮している。
徳田とは一度揉めてから犬猿の仲らしい。
そして私は、黒井の眼中にも入っていないのだろう。
この状況を許しておいて良いのだろうか。
「あっ、もしかしてリアルでハーレムとか築きたいゲスか……」
一度凌辱された女なら、助けてやれば簡単に体を許すだろう……なんて考えなら、こちらよりも城に残った連中を優先するのも頷ける。
黒井一人に、確か城に残った女子は五人程度。
これでは、私達の方を見向きしなくなるのも頷ける。
「キモオタのゲス野郎じゃ、いくら有能でもパスかなぁ……」
兵士共の使い古しと比べられるのも癪に障る。
むこうから土下座して頼んでくるなら、考えなくもないが、男としての魅力はゼロだ。
「ねぇ、黒井とはどうやって連絡を取り合ってるの?」
話し掛けた桂木は、表情を曇らせた。
近くに兵士が居たのだ。
「ごめん……」
「由紀はちょっと軽率だから気を付けて。名前程度なら大丈夫と思っていると、もっと重要な情報も漏らしかねないからね」
「分かった、気を付ける。それで、どうやって連絡をとりあってるの?」
「……それも、戻ってから話すよ」
「ごめん……」
言われたそばから軽率すぎた。
連絡の取り方なんて、名前よりも遥かに重要な情報だ。
桂木だから、こちらの兵士には分からない方法を使っているのだろうが、それでも知られて邪魔されたら大変なことになる。
それを考えも無しに尋ねてしまうなんて、我ながら軽率過ぎる。
今日一日で、桂木からの評価が大きく下がったのは間違いないだろう。
私達が使っている天幕に戻ったところで、それまで無言だった桂木が口を開いた。
「由紀、彼のことは詮索しないでくれるかな?」
「どうして?」
「僕は由紀を失いたくない」
「えっ、どういう意味?」
桂木の深刻な表情を見て、背筋がヒヤリとした。
「彼は、彼の目的を果たすために、僕の十倍以上の兵士を殺している。彼は何処にでも入り込み、自由に攻撃を加えられる。由紀の身体強化は強力だけど、不意打ちや寝込みを襲われたら防ぎきれないと思う」
今度はヒヤリどころか、ゾゾゾっと背筋に寒気が走る。
桂木の十倍以上となると、二十人以上を殺したことになる。
しかも、その矛先が私に向けられるかもしれないのだ。
「ちょっと待って、黒井が私を殺すかもしれないってこと?」
「彼はアイテムボックスを使いこなしているけど、身体強化や攻撃魔法を使える訳じゃないから、捕らえられたら終わりなんだ。自分の情報を不用意に漏らす者、探ろうとする者は、彼にとっては敵なんだよ」
桂木の言葉を聞いて、頭に浮かんだのは那珂川が羽田を殺した件だ。
あれも黒井が羽田を邪魔だと考えて、那珂川に命じてやらせていたとしたら……。
キモオタ変態野郎なだけでなく、直接間接を問わず邪魔者は始末するサイコパスでもあるならば、黒井に不用意に接近を試みるのは危険だ。
「分かったわ、黒井のことは桂木に任せるわ」
「そうしてもらえると安心だよ」
色々聞きたいことは山ほどあるが、一先ず引いて態勢を立て直そう。
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