第77話 ゲスモブ、帰国後を考える
結論から言うと、見なかったことにした。
熱で朦朧として、女子二人の目の前で自慰行為を披露していたなんて那珂川に言おうものなら、羽田と同じくブスリとやられそうだ。
「てか、面倒になってきたから、日本に戻すの止めにするか?」
「うーん……でも女子の四人は帰してあげたいな」
「でもよ、帰ったら帰ったで茨の道を歩く羽目になるんじゃね?」
「そうだけど、このままだとクズ共の子供を産むことになるんじゃない?」
「あー……それがあるのか」
アイテムボックスの能力を使えば、子宮から胎児を取り出せるだろうが、それによって大量出血とか起こったら、俺では対処できない。
清夏のクリーンでも胎児を消せる可能性があるが、清夏はやりたがらないだろう。
やはり母体の安全を考えるなら、日本で処置するのが一番だろう。
「てかよ、俺たちは何時戻る?」
「うん、それは私も考えてたんだけど、こっちの五人が戻って世の中の空気が落ち着いたタイミングがいいんじゃない?」
「だよな、出来る限り色々聞かれたくないけど、事情聴取みたいなのは避けられないじゃんか?」
「そこで何て言うかだよね?」
「そう、俺らが何してたのか話を合わせておかないと、面倒な事になるんじゃね?」
俺は召喚された直後にアイテムボックスに隠れたし、清夏は召喚されたその晩に凌辱されかけた所を助け出した。
その後、俺たちが何をしていたのかを口裏合わせしておく必要がある。
「まず、日本に戻す五人には、気付いたら居なくなっていたって言わせよう。何時居なくなったのかは少々バラついても大丈夫だろう」
「そっか、その後で私と善人は合流して一緒にいた……みたいな話にすればいいのか」
「そう、それなら他の連中は知らないし、俺と清夏だけ話を合わせておけば大丈夫だろう」
清夏が逃げ出したところで俺と合流し、城から財宝を持ち出して、それを売り捌きながら逃亡生活をしていた……みたいな話にすることにした。
「魔法は使えないことにするんだよね?」
「当然だ。まだ分からないけど、日本でも魔法が使えたとしても、知られれば騒ぎになるし、下手したら実験動物にされるぞ」
「だよねぇ、バレないようにして、上手く使えたらいいな」
「だな、清夏のクリーンは使い勝手がいいからな。日本で使えたら、掃除機も洗濯機も洗剤も要らなくなるぜ」
「うんうん、めっちゃ家事が楽になるよ」
ぶっちゃけ、アイテムボックスの中での暮らしは、清夏の清掃魔法に頼りきりだった。
腹も壊さず、ヤバげな感染症に罹らずに済んだのも、清夏の魔法のおかげだ。
あのタイミングで清夏を助け出せたのはマジでラッキーだったし、清掃魔法の使い手を記憶していた俺の目に狂いは無かった。
「ねぇ、善人は日本に戻ったら、魔法を使って何をするの?」
「それなんだよなぁ……アイテムボックスを応用すれば、相当好き勝手な事は出来るけど、目立てば疑われるだろう」
「あぁ、大金を湯水のように使うとか?」
「そうそう、絶対にその金はどこで手に入れたって話になる」
アイテムボックスの能力を使えば、街中にあるATMの金は出し放題だ。
銀行の金庫からだって金は持ち出せるし、超高級な腕時計とか宝石の類だって盗み放題だが、そんな事を続けていれば周囲から浮くし、金の出所、物の入手先を訊ねられるだろう。
親や教師程度ならば、うるせぇの一言で誤魔化していられるが、相手が警察だとか税務署になると太刀打ち出来ないだろう。
「なんか、好き勝手し放題だと思ってたけど、実際にやったらどうなるか考えてみると、意外にしょぼい事しかやれそうもないな」
「じゃあ、日本には戻らないで、こっちで好き勝手やる?」
「それも有りかもな。日本では平凡な生活をして、魔法が使えて当り前のこちら側で豪勢な生活をするってのは有りかもな」
「日本でも、家の中だけならば豪勢な暮らししても大丈夫なんじゃない?」
「あぁ、めっちゃ高い肉とかは食い放題かもな」
チート級の能力を手に入れても、それでやる事がしょぼいあたりがモブの限界なのかもしれない。
これが主人公になるような奴ならば、国を動かすとか、世界を変えるような事に能力を使ったりするのだろう。
そんな感想を自嘲気味に話してみたが、清夏は幻滅したような様子を見せなかった。
「別に良いんじゃない。凄い能力を手に入れたからって、凄い事をしなきゃいけない……みたいな決まりがある訳じゃないし、普通に暮らして、絶対に生活に困らない自信があるだけでも凄いと思うよ」
「よし、日本に戻ったら『働いたら負け』を実践してみるか」
「私も一緒でいい?」
「いいぞ、ただし魔法が使えたら……だな」
「じゃあ、もし日本では魔法が使えなかったら、善人は戻って来ないの?」
「表立ってはな。こっちと日本の文化の進み具合を考えたら、戻って来ないという選択肢は無いけど、魔法が使えなくなるならアイテムボックスからは出られないだろう」
「だよね。私も日本で魔法が継続して使えるって分かるまでは帰るの止める」
「その方が良いな」
凌辱された連中は中絶処置や性病の検査など、日本にどうしても戻らなきゃいけない理由があるから帰らざるを得ないのだろうが、俺たちにはそこまでの理由は無い。
アイテムボックスの中からだって、欲しい物は殆ど手に入る。
全ては魔法次第だが、生活の拠点をこちら側に築く事も考えた方が良いのかもしれない。
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