第48話 ゲスモブ、最初の犠牲を目撃する
火、水、風、様々な属性の魔法が飛び交い、土煙が上がった。
さすがに魔力だけなら、こちらの人間の十倍以上とあって、魔法の威力は高い。
木の幹がザックリと削れ、地面が大きく抉れる程の威力なのだが、グリーンウルフに当たらない。
目に見える火球とか水の刃ならば避けれるのも分かるが、目には見えない風の魔法を放っている者もいるはずなのに、グリーンウルフの悲鳴は聞こえて来ない。
「来るぞ!」
「おぅ!」
リア充グループとは対照的に、全く魔法を撃たない兵士たちが狙いやすいと感じたのか、グリーンウルフが突っ込んできた。
「ギャウン!」
突っ込んで来たグリーンウルフは、兵士の槍を食らって悲鳴を上げて飛び退った。
「見たか、清夏。あいつ、槍の先から魔法を撃ったぞ」
「うん、見た見た。突き出した槍が伸びたみたいに見えた」
ライオンみたいな体格のグリーンウルフに対して、頼りなく見える槍だけで対抗できるのかと思っていたら、こんな裏技を隠していやがった。
闇雲に魔法を放つのではなく、グリーンウルフが避けられないギリギリの距離まで引きつけてから撃ったのだ。
兵士達の使う魔法は、リア充グループ達の魔法のような派手さは無いが、鋭さが段違いだ。
突っ込んで来るグリーンウルフ達に対して、着実にダメージを与えている。
魔法の鋭さも大したものだと思うが、ギリギリまで引きつける度胸があってこそ成り立つ戦術だろう。
そして、兵士達が手強いとなれば、グリーンウルフは当然のように狙いを変えてきた。
「ぐぁぁぁ……」
「田沼! くっそ、離れろ!」
咄嗟に宇田が火球をぶつけて追い払ったが、グリーンウルフに噛みつかれた田沼の左腕からは血が噴き出している。
「みんな、もっと密集しろ! 梶原さん、治療して!」
「は、はい!」
傷を負った田沼が輪の中へと引き入れられ、梶原が治療を始める。
「ど、どうしよう……水、洗わないと」
「縛って血を止めよう。それと服を切って傷口が見えるようにしないと」
オロオロする梶原に女子グループのリーダー役の宮間が指示を出し、男子顔負けの体格の藤井が田沼の服を破り、傷口を魔法の水で流し始めた。
「痛ぇぇぇ、早く治療してくれ!」
「今やってる、男ならガタガタ言うな。琴音、大丈夫だよ」
藤井は暴れる田沼を押さえ付け、梶原の肩をポンっと叩いて励ました。
なんだよ、このイケメンっぷりは……トゥンクって、ときめいちまいそうだぜ。
梶原は真っ青な顔をしながらも、田沼の傷口に両手をかざして治癒魔法を発動させた。
傷口から溢れてくる血の勢いが無くなり、一分ほどで止まった。
「琴音、もういい。他にも怪我人が出るかもしれないからセーブして」
「は、はい……」
魔法の発動を止めた梶原が体をふらつかせると、すかさず藤井が抱き止める。
うーん……異世界の森に漂う百合の香り。
それは良いとして、梶原がふらついたのは、田沼の傷口を見て気分が悪くなったからなのか、それとも魔力の量が足りずに魔力切れを起こし掛けているのか、どっちなんだ。
もしこの程度の治療で魔力が尽きているなら、回復役として期待できなくなる。
この先、サイゾー達が邪竜の討伐に行くのなら、腕の良い回復役は絶対に必要だ。
梶原の様子はサイゾーに報告して、少し対策を考えた方が良さそうだと考えた時だった。
「うわぁぁぁぁ……」
斜面の上から勢いを付けて突っ込んで来たグリーンウルフの体当たりを食らって、男子の一人が吹っ飛んだ。
ゴロゴロと斜面を転げ落ちた所に、待ってましたとばかりにグリーンウルフが群がった。
「金森ぃ!」
「陣形を崩すな!」
宇田が転げ落ちた金森を追い掛けようとしたが、兵士に怒鳴られて足を止めた。
「でも、金森が……」
「もう、無理だ!」
兵士の言葉通り、グリーンウルフの大きな顎に咥えられた金森の首は、曲がってはいけない角度に捻じれているように見える。
グリーンウルフたちは、金森を咥えた一頭を守るように囲み、足早に去って行った。
「急いで、この場を離れる」
「ふざけんな! 仲間がやられたんだぞ!」
「ここは、奴らの狩場の中だ。死にたいなら残っていて構わないぞ」
兵士の一人に突き放すように言われても、座り込んだリア充グループはすぐに反応できなかった。
「さっさと立て! 本当に置いていくぞ、そんな奴らに食われたいのか!」
兵士に怒鳴られて、ようやく立ち上がったものの女子の多くはグズグズと泣き始めていた。
「おい、地図を見る奴を変えろ。まるで方向が違う。こっちだ」
兵士が槍で差した方向は、これまで進んでいた方角からは四十度以上右向きだった。
「手前ぇ、ぜんぜん方向違うじゃねぇかよ、田沼ぁ!」
「うるせぇな、だったら手前が案内しろよ」
「言われなくてもやってやらぁ!」
「うるさい、さっさと歩け! 喧嘩なら歩きながらやれ、もたもたしてると奴らが戻って来るぞ」
兵士に尻を叩かれて、ようやくリア充グループは歩き出したが、その足取りは更に重たくなっていた。
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