8th CASCADE

「はじめまして、痲依の兄です」

バリと名乗った少年はうやうやしくぼくに名刺を差し出した。

サティスファクションレーベル、バストトップとアンダー、ボーカル、バリ、名刺にはカタカナばかりでそう書かれていた。

ぼくも名刺を差し出そうとすると、

「いいや結構」

断られてしまった。

「誘拐魔の名刺なんていりませんよ。それにぼくはあなたのことを既に存じあげていますから」

そう言った。

「もちろん、あなたがカスケード使いであることもね、要雅雪さん、いやオーブンさん、はたまた棗弘幸さんでしたっけ?やっぱり名刺頂いておきます。その名刺にあなたの名前がなんと記されているのか少しだけ興味がありますから」

ぼくは差し出していた名刺を、バリの目の前で握り潰した。

「何者だ、きみは」

「ご存じなかったですか?ぼくのこと。自分では結構有名なつもりだったんですが」

少年の言う通り、ぼくは目の前の少年のことを知らないわけではなかった。初対面ではあったけれど。

インディーズバンドのボーカルとしての彼のことは申し訳ないことにまったく存じあげないが、以前書いた通りバリはコスプレイヤーのカメラ小僧としてインターネットではそこそこ有名なカメラマンだった。そういった経緯からネットフォトグラファーとしてのぼくであるオーブンとバリは何通かメールを交したこともあった。それから、痲依の初恋の相手だと聞かされてもいた。バリはただそれだけの少年のはずだった。

しかし目の前の少年は、ぼくがカスケード使いであることだけでなく、桑元痲依を誘拐したことまで知っている。

始末するしかない。

ぼくは痲依に車のキーを渡し、車に戻って中で待っているように言った。

何年ぶりの再会なのかは知らないが、痲依は名残惜しそうに席をはずしてくれた。

これで思う存分にカスケードを使うことができる。

ぼくは大きく深呼吸をした。

「ぼくを始末するおつもりですか?残念ですけど、それは無理な相談ですね。先ほど、あなたと痲依が帰ってくる少し前に一時間たってもぼくから連絡がなければ110番通報するように妹に頼んでおきましたから。もちろん、あなたが誘拐魔でカスケード使いであることも話してあります」

なるほど。相手がカスケード使いだとわかっているなら、ハナフサシホのような攻撃に転じずとも、カスケードを封じることが可能というわけか。力が強くなりすぎてしまった今、微弱なカスケードを使って少年を操ることはもはや不可能に近い。お手上げだ。ぼくは白旗でも振りたい気持ちだった。

「一体ぼくに何の用なんだ」

「お預かりしていただいていた痲依を返していただきたくて馳せ参じた次第です。痲依さえ返していただけたら、警察に通報することは致しません」

それも出来ない相談だろう。

「立ち話もなんですから、中で話しませんか?もちろん痲依と三人で。あなた確か中学校の教員でしたよね」

そして少年はもう一度だけ、

「はじめまして、痲依の兄です」

と言った。

「せっかくですから三者面談といきましょうか。痲依の進路のことなど、いろいろご相談したいこともありますし」

ぼくはバリを家に招きいれることになってしまった。




「ロリコかい?うん、ぼくだよ。うん、だいじょうぶ。今のところはね。痲依を返してくれるかどうかはまだわからないけどね。うん、痲依にも会えたよ。今はね、誘拐魔にお茶をいれてもらってるところ。ロリコも来る?うん、場所はわかるよね?そう、××区の高級住宅街。隣に藤堂っていう大きな家があるからすぐにわかるよ。それじゃ、もしわからなかったら電話して」

電話を終えると、バリはぼくが差し出したお茶に手を伸ばした。痲依はバリがお茶を一口飲み終えるのを待ってから口をつけた。ぼくが毒でもいれたと考えたのだろうか。

「誰か来るのか?」

これ以上厄介事をぼくは持ち込みたくも持ち込まれたくもなかった。

「さっき話したぼくの妹ですよ」

それくらいはなんとなくだが電話の内容から察していた。

だが、わからない。

なぜこの兄妹は痲依にこだわるのだろう。

痲依が初恋の男の子だと言った少年が、痲依の兄だと自己紹介したのも気になっていた。

「ぼくの妹――ロリコっていうんですけど――マヨリの双子の姉なんです」

バリはぼくの疑問に対し、ますますわからない答えを提出してくれた。これが回答用紙の出来事なら有無を言わせず×をつけてやりたいところだが、うすっぺらな紙の上の出来事などではなく、少年のちんぷんかんぷんな回答が少なくともこの世界ではまぎれもない現実であることにぼくは落胆していた。

「よくわからないな。詳しく聞かせてくれないか」

バリは、それじゃあロリコが来るまでの間少しだけ、と痲依の身の上について、かいつまんで話してくれた。

バリと妹のロリコに血のつながりがないということ、バリとロリコは再婚した両親の連れ子同士であったが、数年前に両親が離婚してしまったため現在は兄妹ですらないということ、

「バリとロリコは、ぼくたちのバンド上での名前ですが、幼い頃に決めたぼくたちの魂の名前なんです。ぼくたちは戸籍上はもう兄妹ではありませんが、魂は永遠に引き裂かれることのない兄妹なんです」

ロリコには双子の片割れがおり、最初の両親の離婚の際に別々に引き取られ、その片割れこそが痲依なのだという。

「本当は三つ子だったらしいんですけどね、三人のうちのひとりは死産だったそうです。ロリコと痲依の最初の両親は、産まれてくるこどもは双子だと医師から聞かされていたから、麻衣と依子という名前を用意していたそうです。依子っていうのが、ロリコの肉体につけられた名前です。しかし、うまれてきたふたりのうち片方は先天性の病気を持って産まれてきてしまった。だから麻衣と依子の名前から一字ずつとって、マヨリとすることにし、病気を持ってうまれてきたから、麻ではなくやまいだれの痲を当てた。それが痲依です。ふたりの両親は死産だった三人目のこどもを麻衣と名付けることにしたのだそうです」

バリの口から「彼女」の名前が出たことにぼくは驚きを隠せなかった。

「彼女」が死産だった?

そんなはずがない。

ぼくは「彼女」を誘拐するために産まれたのではなかったか。

「彼女」が産まれなかったこの世界で、なぜぼくは「彼女」の存在を知り、誘拐しなければならないと思ったのだ。

ひどい頭痛がしていた。

玄関でチャイムが鳴っていた。

「バリくーん、来たよー」

痲依と、そして「彼女」と、同じ声が聞こえていた。




痲依は、ぼくが幼い頃からなぜだか知っていた、誘拐しなければいけないと感じていた「彼女」にうりふたつだった。

それもそのはずだ。

痲依は「彼女」の片割れだったのだ。そしてまた招かれざる二人目の客、ロリコという少女も「彼女」にうりふたつ。

しかし痲依もロリコも「彼女」ではない。

「彼女」は産まれてくることができなかった。

ではぼくは一体何のためにうまれてきたのだというのだろうか。

何のために生きているというのだろうか。

カスケードという奇妙な力と「彼女」についての知識、天がぼくに与えた二物、どちらかひとつでも欠けていたなら、あるいはどちらもぼくに与えられなかったなら、ぼくは平凡だがまっとうな中学教師でいられたかもしれなかった。

バリという魂の名を持つ少年は、ぼくと違いどうやら神に祝福された存在らしい。

インディーズのヒットチャートを賑わせているという彼のバンド、そしてコスプレイヤーたちがこぞって撮られたがる写真の技術、彼にはロリコがいて、痲依がいる。

彼が与えられたのはそれだけではなかった。

かつて痲依を妹の双子の片割れとは知らず出会い恋に落ちた彼は、痲依が行方不明になったことを知り、警察にも誰にも頼ることなく独自の捜査で痲依を誘拐した男、つまりぼくと今対峙している。

たいした少年探偵だ。いつかこの家に忍びこんだ連中ならこうはいかない。

そして、少年探偵はぼくに尋ねる。

「あなたは何故、痲依を誘拐したのですか?」

だから、ぼくは追い詰められた犯人らしく、少年探偵に答える。

「生まれたときからなぜかぼくは『彼女』の、麻衣の、名前を知っていて、ぼくはいつか麻衣を誘拐しなければならないと感じていた。だけどこの世界のどこにも『彼女』はいなかった。だからぼくは『彼女』の代わりに『彼女』によく似た痲依を誘拐して、『彼女』を作ろうとした」

何度言葉にしても、おかしな話だ。

我ながら頭がどうかしているとしか思えない。

少年探偵はしかし、そんなぼくに厳かに真実を告げる。

「つまり、それがあなたにとって、最初の、他者ではなくあなた自身に向けられたカスケードだった、ということでしょう」




「あなたは、生まれたときから、とさっき仰いましたが、恐らく物心ついたとき、あなたの中にカスケードがまだ微弱な力としてしか存在していなかった頃のことなのではないでしょうか。ロリコ、あの写真、今持ってる?」

ロリコはこくりとつなづいた。

「彼に見せてあげてくれないか」

もう一度こくりとつなづいて、ロリコは鞄の中から一枚の写真を取り出した。

少女がひとり写っているポートレート写真だった。

少女はマヨリのようにも見えるし、ロリコのようにも見えた。しかし写真の中の少女は少しおとなびており、写真の右下の日付は十数年前のものだった。

マヨリやロリコであるはずがなかった。

「ロリコとマヨリの母親です」

と、バリは告げた。

「あなたはこの女性に見覚えがあるはずです。十数年前、この女性は、今はお隣の藤堂さんにのっとられてしまったあなたの父親の会社につとめていました。そして社内恋愛で大恋愛の末に結婚をして、妊娠したことがわかってからも、仕事熱心な彼女はまだあなたの父親の会社につとめ続けていた。その頃会社は今ほど大きくはなかったから、この女性と夫とそしてあなたの家は家族ぐるみのつきあいをしていた。覚えていませんか?」

思い出せない。

「この女性は産まれてくるこどもは双子だと聞かされていました。だから麻衣と依子と名前をつけようと考えていました。あなたは随分この女性になついていたようですから、おそらくあなたにもその話をしたはずです」

そうだったろうか。




――雅雪くん、わたしのおなかにいる子が無事産まれて大きくなったら、そうだな、麻衣の方がいいかな、麻衣が大きくなったら誘拐してあげてね。




あれは冗談だったのだろうか。しかし幼いぼくはそれを真に受けてしまった。そして、ぼく自身にカスケードを――

「いや、そんなはずはない。自分自身にカスケードを施すなんてこと、できるわけがない」

ぼくは少年探偵に反論を試みた。

「いいえ、できます。できるはずです。先ほど痲依が先天性の病気を持って産まれ落ちてしまったことはお話しましたよね。あなたは二ヶ月も痲依と生活をともにしていたようですが、一体どんな病気かご存知ですか?」

ぼくは首を横に振った。

「ご存知ないわけがないんです。彼女の体は、体の左右ふたつずつある器官がすべて片方しか機能していない、という現代の医学ではその病理を解明できていない病気のうちのひとつです。はんぶんこ病なんていうふざけた名前で呼ばれたりもしています。痲依は内臓だけでなく、目や耳、手足もまた片方しか機能していません。しかしあなたからはそんな痲依に対する配慮がまるで見えない。ひょっとしてあなたには痲依は、何の病気もかかえていない健康な女の子に見えているんじゃありませんか?」

そう、なの、か?

ぼくは懇願するようにマヨリを見た。

痲依はロリコと同じ仕草でこくりとつなづいた。

「痲依の顔をよく見てください。左側は困った顔をしているのに、右側は無表情です」

しかしぼくにはただ困った顔をしているようにしか見えないのだ。

マヨリを見つけた、あのときから。

「あなたはおそらく無自覚にあなた自身にカスケードを施してしまっているのでしょう」

ぼくはもう何も聞きたくはなかった。




「痲依の先天性の病気について、先日合衆国の学者が、ある学説を発表しました。あなたは畸形嚢腫というものをご存知ですか?その学者は痲依と同じ先天性の病気の、数少ない患者たちの共通項を発見したのです。それが、畸形嚢腫でした。ブラックジャックのピノコと言えばわかりやすいかもしれませんね。患者たちの体の中に、小さな袋状のものがあり、その中に奇妙な形の脳や内臓がちょうど赤ん坊一人分入っている、そういった症例です。胎児のときに、双子の片割れがもう一方の体の中に取り込まれてしまうことがあるのです。ぼくはこの学説を読んだとき、ひとつ疑問に思ったことがあったのです。死産だったとされる麻衣という名前のロリコや痲依の姉だか妹だかは本当に死産だったのか、と。学者は体内に生き続ける双子の片割れが、患者に何らかの影響を及ぼして半身の機能を停止させている、畸形嚢腫を患者の体から取り出すことで完治した、という症例まであるのです。ぼくはロリコと痲依が生まれた風俗十路病院の産婦人科医を訪ねました。しかし産婦人科医はすでにその病院を退職して、開業医として小さなクリニックを経営していました。榊こどもクリニック、榊李子という女医をあなたはご存知のはずだ。あなたのかかりつけの医師ですよ。あなたと同い年くらいにしか見えないのに、50近い女医です。ぼくは彼女を訪ねました。ちょうどあなたが痲依を連れてカスケード障害の診察を受けた日、ぼくはあなたたちと入れ違いに彼女を訪ねたのです。そしてぼくは痲依とロリコの出生の謎について、彼女に尋ねました。彼女はとても聡明な方ですね。もう十数年も前の話なのに、ロリコと痲依の名前を告げるとすぐに思い返してくれました。死産、でも三つ子でもなかったと彼女は言いました。それは母親のついた嘘なのだと。生まれた双子の片割れが先天性の病気を抱えていたために、母親が名づけようと思っていた名をその子につけることを拒んだ、皮肉をこめてふたつの名前をもじってやまいだれまでつけた。ただそれだけのことだったと彼女は話してくれました。ぼくは痲依がはんぶんこ病であることを話しました。彼女もまたあなたと痲依を待つ間にその学説を読み終えたばかりなのだと話してくれました。彼女は内科医の開業医ですが、随分外科手術やもちろん産婦人科にも精通されているようですね。あなたのその脚の手術をしたのも彼女だそうですね。痲依さえ連れていけばいつでも畸形嚢腫を取り出してくれるそうです。そのための準備をしておくと彼女は言ってくれました。あなたが誘拐しなければならないと思い続けていた麻衣は死産などではなかったのです。ずっと痲依の中にいたのです。ぼくと取引をしていただけませんか?ぼくは痲依を生まれてからずっと苦しめてきたその病理から開放してやりたい。あなたは麻衣に会いたい。誘拐したいと今でも考えているはずです。ぼくは畸形嚢腫を、麻衣を、あなたに差し上げたいと考えています。また明日来ます。明後日もロリコといっしょに来ます。お返事を頂けるまで何度でも来るつもりです。考えておいてください。あなたの返答次第によっては、通報も止むをえないと考えています」



痲依の体から、バリの言った通り、いや合衆国の学者の学説の通りというべきか、畸形嚢腫が発見され手術により取り出されたのは、あれから1週間後のことだった。

痲依の手術が始まる頃、窓の外では雨が降り始めていた。この一、二ヶ月雨はこの街に降らなかった。降らない雨と恐怖の大王の代わりに降りてきたのは、少女ギロチンという世界の犯罪史にその名を残すだろう連続殺人事件と、ちっぽけな誘拐事件だった。ふたつの事件が終わりに近付いている。雨はその象徴のように思われた。

「恵みの雨かな」

ロリコが言った。

「涙雨だろ」

バリが言った。

「誰の?」

「麻衣って子の」

「そっか」

「そうだよ」

雨はこの街を元通りに洗い流してくれようとしているのかもしれない。ぼくにはそう思えた。

ぼくのかかりつけの医師は、その日一日の診療を中止し、彼女が以前勤めていたという大病院で痲依の体の隅々までを調べ、そして痲依を連れて手術室にこもりきりだ。

バリとロリコ、そしてぼくが待合室で手術が終わるのを待って、もう四時間になる。

ぼくはバリの取引きに応じたのだ。

ぼくが何故「彼女」を誘拐しなければならなかったのか、幼い頃からの疑問のこたえはすでにぼくのなかにあったし、納得もしていたが、それでも「彼女」に会いたいと思った。

しゃべれなくても。言葉が通じなくても。

たとえ人の形をしていなくても。

麻衣、ぼくはきみにずっと会いたかった。

だからぼくはバリの取引きに応じることにしたのだった。

バリは手術が終わるのを待つ間、小さなノートにペンを走らせ続けていた。作詞ノートと表紙には書いてあった。

バリはぼくの視線に気付き、ペンを止めた。

「こどもの頃、ぼくは自分のことを1999年の夏に世界を救う救世主なんだって思ってたんですよ。痲依ひとり救うのがやっとなのに。世界を救うだなんておこがましいですよね。特別な存在なんだって思いたかったのかな。今度そういう歌を書こうかなって思って」

ロリコもまたソファに譜面を広げて、そこにおたまじゃくしを書き込んでいる。

「ぼくらのバンド、作曲はギターのシンゴマンてやつがやってるんですけど、こいつが楽譜の読めないやつで、ギターのコードしか書けないんです。それにベースやドラム、ピアノを入れて編曲するのがロリコなんです。ロリコの編曲はすごいんですよ。よかったら今度聴いてみてください」

バリからCDを手渡された。

「ぼくたちの新しいアルバムです」

楽しそうに語るバリとロリコを見ていると虚しさがこみあげてきた。

彼らには夢がある。

ぼくにも夢があった。

ぼくの夢はもうすぐ、もう間もなく叶おうとしているのに何故だか心が晴れてはくれない。

「なんだか浮かない顔ですね。まるで夢が叶ってしまって、それが現実になってしまったかのような」

バリは言った。

「夢が叶ったら新しい夢を見付ければいいんですよ。あなたはもう間もなく麻衣に会える。もう写真は撮らないんですか?あなたにはいろいろと黒い噂があったけど、ぼくはあなたの撮る写真が他のどんな写真よりも好きだった」

写真は、もうやめた。

そうこたえようとしたぼくの耳に、手術室から赤ん坊の鳴き声がしたような気がした。

たぶん、幻聴だろう。




ぼくは手術室で、銀色の器に盛られた「彼女」の脳や内蔵を見つめていた。

「彼女」は、ただ器に盛られているだけで、邪魔なチューブや機械などはとりつけられてはいなかった。

心臓が、小さく動いていた。

「みてくれは悪いけど、生きてるわ、『彼女』」

女医は目を輝かせてぼくにそう言い、ついでのように痲依が一週間の入院が必要であることを告げた。そう、とだけぼくは返事を返した。ぼくも女医も痲依に対する興味がすでに失せていた。

「あと数分の命ってところかしら。会いたかったんでしょう?その「彼女」に。よかったわね」

人払い、しておいてあげるね、女医はそう言って手術室をあとにした。

手術室はぼくと「彼女」のふたりきりになった。

器の上に転がった小さな眼球がふたつ、ぼくを見つめているように見えた。

ぼくは「彼女」の小さな脳を優しくなでた。

「やっと会えたね麻衣」

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