封印
HK15
封印
「あの
「話したよ」その男は疲れた声で言った。旧共和国軍の高級将校だったとは思えないほど疲弊しきった、やつれた声だった。「全て話した。包み隠さず」
「ふざけるなよ。お前はあそこに守備隊や自動防衛システムがあるとは言わなかった。一言もな」
「わたしは嘘は言っていない」旧共和国軍の男はかすれた声で答えた。「本当だ。そんなものがあるわけがない。あんたがたがこの国に攻め込んできたとき、全軍を動員する必要があった。あそこの守備隊も根こそぎ……それに、自動防衛システムなんか、我が国が自主開発できるなんて思うのか」
「言い逃れるつもりか。こちらの調査隊が全滅したんだ。生存者はほとんどいない。どういうことだ」
「そんなことは知らな……待て」旧共和国軍の男は言った。「あんたら、あそこを開けたのか」
「当然だ。大量破壊兵器が隠匿されているかもしれないからな」
「ばかな! なんてことを! あそこを開けただと! あんたたちは大馬鹿者だ! わたしは言ったはずだぞ! 開けるなって! あれは、あれは、
一息に言い切り、ぜいぜいと息を切らした旧共和国軍の男は、そこでふと何かに気づいたような顔をした。それから言った。
「やけに静かじゃないか?」
「え?」情報将校は目をまたたかせ、耳を澄ませた。「──確かに。おかしいな……今日は今朝からデモがすごいはずなんだが」
そのとき、かすかな音がした。
ひっかくような音。ドアの外から。
「おい」旧共和国軍の男は言った。「聞こえるか。あの音」
「聞こえる」
「わたしにはわかる。奴らが来たんだ。あんたたちが呼び起こしたものがな」
情報将校は顔を引きつらせた。腰のホルスターから制式の9㎜拳銃を抜いた。慌ただしくスライドを操作し、薬室に初弾を送り込んだ。
旧共和国軍の男は、その様子を哀れむように見つめ、もう誰も話さなくなった古い古い言葉で呟いた。それは、彼が、もうなくなってしまった祖国のために奉職していたとき、誰にも話せぬ仕事のために否応なく身につけた言葉だった。
古き神が目覚めた。
ひっかく音はどんどん、どんどん大きくなっていった。
封印 HK15 @hardboiledski45
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます