32話・冷たい瞳

「カナ様、城に戻りましたよ。大丈夫です」


 ゆっくりと地面におろされる。ここは、お城の中庭だ。おろし終わるとリードが二、三歩ふらりとよろめいた。


「あの……、大丈夫? どこか怪我したの?」


 リードは、普段あまり見せないような笑顔で答えた。まるで私に心配をかけないように。


「少し、魔力を使いすぎたみたいです。すみませんが、私はここで休ませてもらいます。ここなら、カナ様もお部屋まではわかりますよね。お連れできなくて……」


 座りこみ、彼はすぅすぅと眠りはじめてしまった。

 後ろに倒れると危ないと思い、私は彼の後ろにまわりこんで頭を支えながらゆっくりと寝かせた。


「カナ様!」

「ソーイさん」


 緑色の髪に寝癖を携えて、ソーイさんが早足で歩いてきた。


「ご無事でしたか。今カトル殿下は街に出てカナ様を捜索しております。上空を飛んできたなら誰かが気付き、きっとすぐ戻ってくるでしょう」

「あの、リードが」

「――魔力の使いすぎ……ですか?」


 私はこくりと頷くと、ソーイは少しだけ嫌な顔をしながらも彼を背負ってくれた。


ワタクシはそちら側にあまり歓迎されないので途中までになりますがお送りします」

「あの、ありがとうございます」


 ーーー


「カナ!」

「カトル」

「何故ここに?」


 医務室という場所だろうか、ソーイさんはリードをそこに連れて行くと言うので私は一緒についていき、そのまま一緒にここにいる。今はとにかく、一人になりたくなくて……。

 ソーイさんは、報告をしに行くと言って部屋をでていった。


「リードが倒れたので、心配で……」


 そう言うと、カトルは無表情でツカツカと近付いてきた。


「リードは強いから大丈夫だ。それよりもカナの方が」

「ひっ!!」


 差し出したカトルの手には赤黒いものがついていた。

 これは、……何?

 血のように見えるそれに私は驚いて小さくだが恐怖の声をあげてしまった。


「すまない、急いでいた」


 カトルは手を下げて、謝るけれど――。やっぱりここは、元の世界とは違いすぎる。ここは私の世界じゃない……。

 さっきの人達のことを思い出してしまい、私の体はまた震えだした。


「私、もう少しここに……」


 私がそう言ったとたん、先ほど謝ったカトルとは全然違う、氷のような表情で彼は私の手を掴み、抱き上げた。

 優しさなんてない。痛いくらい急に――。


「何故他の者を――、私がいるのに――」


 ぎゅっと唇を噛み締めて、カトルは私を部屋へと連れていった。


 違うよ、カトル。それは私じゃない……。あなたが望んでいる人は私じゃないんだよ。

 そう伝えてあげたいけれど、代償として払ってしまった彼には届かない。

 私は、どうしたらいいの?

 誰なら答えがわかるんだろう。誰なら、この人を救ってあげられるんだろう。私には無理なのに。

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