30話・消えた聖女
「カナ様、よく笑うようになりましたね」
リードに突然、そう言われた。メリエルさんやミュカ君達と話せるようになって、閉じ込めていた私が少しずつでてきたから、かな。
「自然な笑顔がとてもいいですね」
「私、そんなに変わりましたか?」
「はい、失礼かもしれませんが以前はいつも疲れたような目をしていました。話し相手が増えたのがよかったんですか?」
「――そうかもしれません。この世界で私はたった一人だと思っていましたから」
続けている魔法の練習も、これが終わったあとは猫屋敷にいったり、メリエルさんのところにいったり出来るようになった。一人でいる時間が減って、嫌なことやつらいことを考える時間が減った。
「帰りたいですか?」
「えっ」
びくりとする。どういう意味だろう。もしかしてこの前の話を聞いていた?
「そう……ですね。帰れるなら帰りたいです」
「そうですか。出来ればこの世界で生きていってほしいのですが……」
そう言って、彼は口を閉じた。この人は、カトルの味方なのかな? 私に、この世界にいて欲しいなんて……。
「さぁ、城に戻りましょうか」
「はい」
馬車に乗り込み、戻ろうとした時だった。一人の衛兵が近付いてきてリードに伝えていた。
「マリョククイが暴走しています」
「なにっ?」
マリョククイ? 知らない言葉だ。何だろう。
「カナ様、私は急ぎ戻らなければなりません。護衛は、この者に」
「はい」
そう言い残し、彼は風の魔法を使って空を駆けた。風の魔法が使えたら、あんな風に空が飛べるのかな。私は、彼が飛んでいく方向を見た。
ーーー
「どこ、ここ……」
どう見てもお城じゃない。暗い場所に私は連れてこられたみたい。だんだんと思い出す。馬車が急に止まって、それで……。
「ここは、予言の魔物、破滅の神復活を望む者達が集う場所だよ。聖女様」
「……誰?」
後ろ手で縛られ、身動きがとれなくされていた。怪我はないけれど、これは誘拐……ということなの? なんで私が。
「私はこの世界が終わって欲しいと思っている一人さ。王子様に愛されて幸せいっぱいなあんたにはわからないだろうけどね」
知らないよ、そんなこと……。私は、タツミが好きなのに、無理矢理この世界につれてこられたのに。
そう言いたいけれど、目の前の女の人に布で猿ぐつわされた。
「これで、魔法は使えないでしょう?」
「むぅ……ぅぅ――」
これじゃあ、ライトの名前を呼べない。私は恐怖でがくがくと震えだしてしまった。
「心配しないで、殺すのは生け贄の儀式が整ってからだから。あなたがいなくなれば、予言の
女の人の顔が狂喜に歪み、口は細い弧を描く。外には沢山の人がいる気配がする。女の人は立ち上がり、その人達のところへと歩いていった。
なんで、私がこんな目にあわないといけないの? 私は聖女じゃない。私はただの高校生なのに。
冷たい床に、涙がぽたりぽたりと落ちた。
「カナ様」
誰?! 私の名前を呼ぶ、小さな声がした。
聞こえたあとすぐに、ふわりと空気が動いた。顔をあげると、そこにはリードが立っている。なぜ、彼がここにいるの? 魔法?
「ご無事で良かった……」
口に巻かれた布をとり、彼がいつも持っている剣で縄を切ってくれて私は自由になった。
「今から闇の魔法で姿を消します。音をたてれば誰かが中を見に来るでしょう。失礼します」
そう言って、私を抱き上げ彼は魔法を使った。
「闇の精霊よ」
暗闇が、私達の姿を隠した。そして、彼はもう一つ魔法を使う。
「土の精霊よ」
大きな土の塊を扉に向かって放つと、ドンッと大きな音がした。
「何だ!? 聖女は普通の魔法が使えないって話じゃなかったか?」
バタンと扉が開き、中を何人も見にきた。
「おい、聖女がいないぞ!」
「そんなはずないだろ! さっきまでそこに!」
「探せ! まだ近くにいるはずだ」
私達に気づくことなく、その人達はバタバタと扉の向こう側へと走っていった。
「行きましょう、城からそう離れていなければいいのですが……」
小声でリードが話す。まだ、私は下におろしてもらえていない。
「私、歩けます……」
「いえ、このまま飛ぶことになるかもしれません。嫌かもしれませんがお許しください」
そう言って、彼は扉をくぐった。扉の向こうは部屋になっていて、奥には下に降りる階段があった。
「下に降りると人がいるかもしれませんね……」
壁にむかい、魔法を使った。さっきの土の魔法のもっと強くしたものだろうか。壁にぶつかると大きな穴を開けた。
下からは誰かもわからない叫び声が聞こえてくる。
「飛びます! つかまってください。風の精霊よ」
トンッと床を蹴って彼は穴から外に飛び出した。すると私達めがけて下から何かが飛んできた。
「ライト!」
私は結界をはると、飛んできた物は弾かれていた。火の塊だったみたい。
「ありがとうございます。カナ様」
「はい…………。うっ…………うぁぁ」
青い空を見て私は、外に出られたことを実感し、涙が溢れだしてしまった。リードは何も言わず、泣きじゃくる私をそっと優しく抱き締めてくれ、そのままお城まで飛んでいった。
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