21話・怖いよ
ガタガタと震える手。
目の前には大きくて恐ろしい化け物。顔は狐、体は四本足だが獣のような毛ではなく蛇のような爬虫類の鱗に覆われている。
「カナ様、私と兄が魔物に魔法を撃ちます。カナ様は練習通りに結界を――」
そう言って、ルードは魔物の前に出た。すると、すぐにリードが隣に降り立ち、剣を両手に構えて魔物へと向かった。
二人が前に出ると、まわりの兵士達は円を描くように下がっていく。
あの二人と魔物を結界に閉じ込めて。
「ライト!」
大きな結界が彼らと魔物を閉じ込める。
魔物は結界にぶつかりながら双子の兄弟と戦っていた。
「あの魔物、二人の剣と魔法が効かないのか……?」
カトルが汗をかいて見守っている。
「彼ら以上の使い手は、この国には――」
いないと、口にださなくてもわかってしまった。
あの二人が負けたら、どうなってしまうの?
私は嫌なことを想像してしまい、ぶるりと身震いする。
「きゃっ」
魔物が地面にぶつかったのか地面が揺れる。
私は驚いて倒れそうになった。
「カナ」
カトルが後ろから支えてくれる。
「ありがとうございます」
「あぁ」
私には聖なる力しかない……。このままじゃ、失敗する?
「カナ、大丈夫だ。もうすぐ――」
ライトが話しかけてきた。
もうすぐ?
「リサが浄化してくれる。僕がいいと言ったら結界をとくんだ」
リサさんがきているの? でもまわりには見当たらない。何故?
「カナ、いいぞ」
突然、そう言われ私は結界をといた。すると背後から眩しい光が現れた。
その光は私達を越えて化け物に向かう。
大きく光ったあと、化け物を包み込んだ。
「あれが――」
浄化? 私が使う魔法とは違うもの? リサさんが使える魔法。
光が弱くなったあと、魔物がどんと倒れた。その身体から、キラキラと小さな光をいくつもいくつも空に伸ばしながら。
「終わった――――」
帰れるの? 帰れるよね?
緊張していた身体からストンと力が抜けた。
急に力が抜けたことに気がついたのか、カトルは私を抱き上げた。
「聖女カナ様バンザーイ。カトル殿下バンザーイ!!」
誰かが叫びだし、波紋のように広がってたくさんの声があがる。
違う。違うよ。私じゃない。本物の聖女は。
「聖女カナの勝利だ! 私達は予言に打ち勝ったぞ」
カトルが叫ぶと呼応するようにまわりの声が大きく大きくなっていった。
私の小さな声は誰にも届かない――。
ちくり
何かが、噛み付いたような、刺さったような痛みが走ったあと、私は気を失った。
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