2話・謝る

「落ち着いたかい?」


 横に座ったカトルが、心配そうな顔で覗き込んでくる。


「はい」


 ゆっくり息をして、少しだけ落ち着いてきた。スマホの画面を確かめるが、返信なんてもちろんない。ただ変わらない光があるだけだった。

 そっとポケットに戻してカトルに向かい合う。


「あの、私帰りたいんですけど。彼氏と話したいことがあって」


 ……。沈黙が流れる。


「ここ、映画のセットとかですよね? 貴方だって日本語を話してるし……」

「すまない」


 なんで謝るの? 私はただ帰り道を聞きたいだけなんだけど。


「さきほども言ったがここは光の精霊が加護する国ライトコール。君のいた世界とはまったく違う場所なんだ。そして、魔法の力で君を召喚したんだが、この魔法の力は一方、呼び出すためだけに向いている」


 一方通行? この世界にくるだけ。それはつまり、


「……帰れない?」


 申し訳なさそうにカトルがこくりと頷いた。


「なんで……?」


 あまりのショックに、私は意識を失った。


「カナ!」


 カトルの叫びが遠く聞こえていた。


 ーーー


「なあ、加奈?」

「何?」

「猫飼っていい?」


 急にタツミが捨て猫を拾ってきた。白くて、目が青色の猫だ。


「私の家じゃないし、好きにすれば?」

「やった! 名前をつけないとなー。うーんと、うーんと。メスだし、迷子だし、よしお前はアリスだ! あー、でてくる猫はチェシャだっけ? まあいいや。よろしくな。アリス」


 男の人がつけるのにすごい、かわいいネーミングだなぁ。そう、思った。


 ーーー


「ねぇ、アリスにばかり構ってないで! 私とその猫どっちが大事なの?!」


 猫に嫉妬なんて、馬鹿らしい。わかってる。

 私だって、猫好きなんだもの。

 なのに、なんであんなこと言っちゃったんだろう。

 タツミ、すごく悲しそうな顔をしてた。


 謝らなきゃ。馬鹿なこといってごめんなさいって。


 ごめんね、タツミ。

 ごめんね。

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