俺の清水部長が可愛くて仕方ない

第1話

人はそれを後悔と呼ぶ。



俺は朝比奈 尊(たける)、28歳、入社5年目の平社員だ。

今日も鬼のように怖い上司の叱責をもらってしまい、イライラしながらホットコーヒーを口にする。


「うわ、なんだよ加糖じゃねえか、ミスった」

今日は絶対仕事を早く終わらせるつもりだったのに。最悪だ。

なぜそんなにも早く仕事を終わらせないと、と奮起していたかというと。

今日が花の金曜日だから?可愛い恋人が待っててくれているから?というわけではない。


「うーん、顔が映ってないのは自信がないから、とか釣りだから、ってのもあるけど。

声かけてきてくれたし、なにより色白なのにガタイはそれなりよさそうなのがいいよなあ」

俺が就業終わりに見ていたのはマッチングアプリ。男性限定の。

ごく一部の仲の良い友人以外には隠しているが、俺はバイだ。うん、つまりは両刀ってやつ。

マッチングアプリは何回か利用している。後腐れないし、うまくやればいいストレス解消になる。

お互いの理にかなっているし、風俗嬢みたいにわざとらしいのはうっとおしいし。


「やば、ちょっと遅れそう…くそ、部長のせいで」


この間いつものようにマッチングアプリを開くとメッセージがきていたのだ。

35歳、ネコ、会社員。写真は顎から下の胸元のみで、かちっとしたスーツを着ている。そもそも顔を出している人はあまりおらず、皆手で顔を隠していたり、ネコ側ならあざとい写真を載せている人が多いが、この人はそういうものを一切匂わせない、むしろタチなのでは?と思わせるガタイのよさだった。

俺はあざとさを前面に出しているような面倒な奴はいらないからちょうどいい。

スーツのまま、俺は待ち合わせのホテルへ向かった。



「502号か」

部屋の前でインターホンを押して中から顔を見せたのは…


「すみません間違えました」

「間違えてないぞ、朝比奈」


部屋から顔を出したのは、今日会社で俺を叱責した鬼上司、清水部長だった。

そして冒頭の独白に戻る。


部長はいつも通りの表情の変えない涼しい顔で俺を真っ直ぐ見る。

いや、部屋はここだからきっと部長の言うように間違いではないのかもしれないけれど。

俺がいろいろなことを間違いにしようと提案しているのを優秀な部長なら酌んでいただけないでしょうか。


「いや、え?え、ちょっと待ってください部長。

仕事のテンションで話さないでください、俺めっちゃ混乱してるんですけど」

「俺はいつもこのテンションだ」

「いえ、そうではなくて…」

だめだこの人話が通じない。こういうとこが苦手なんだよ!勘弁してくれよ。

「とにかく入れ」

「はあ…」


俺は促されるがまま、部屋へと足を踏み入れてしまった。

それが俺の人生を変えるだなんて思ってもみなかったんだ、この時は。

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