第3話 20年前

2010年、人類に史上最大の危機が襲った。


全世界で、一度眠ると二度と目を覚ますことなく自発呼吸が停止し死に至る【夢死病むしびょう】が発生し、日に日に拡大していった。


人類は全力でこの病気の解明を進めた。

寝ると死ぬ。

それ以外では何も症状もなく、罹患しているのかすらどうかわからず、検死を行ってみても〈異常なし〉としか結果が出ない。このような状態では対策のしようはなかった。日に日に死者が増えていく中で、”あの日”は訪れた。


”あの日”、人類の3分の1が目を覚ますことはなかった。


深夜、健康的に眠っていた人の大多数が夢死病にて息を止めた。

病院の大多数の入院患者の心電図モニターで警報が鳴り、夜勤の看護師や医師たちは懸命に手当てをした。しかし生き返る者はいなかった。

夜が明けるにつれて、はっきりとした異常が見え始めた。

スーパーの業者搬入口のゲートが開くことはなく、鉄道も動く気配を見せない。

工場、また警備員などの日勤への交代時間になっても交代要員が来ない。

新聞配達のスーパーカブが走りだすも、車とすれ違わない。

とても、静かで不気味であった。


人々は恐怖に陥った。明日は自分たちの番ではないか。ある人は寝ないように大音量で音楽をかけはじめ、またある人は店主がいなくなった店から目を覚ます嗜好品を大量に持ち出し貪り食い、ある人は大切な人を失ったことに落胆し自ら死を選んだ。


しかし、この日以降夢死病による死者は一人としていなかった。

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